『ことり』(小川洋子、朝日新聞出版、2012)

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「小鳥の小父さんが死んだとき、遺体と遺品はそういう場合の決まりに則って手際よく処理された。つまり、死後幾日か経って発見された身寄りのない人の場合、ということだ」という文で始まるこの物語は、いわゆる孤独死をした一人の男の、物心ついてから死に至るまでのあれこれを綴ったものである。


「小鳥の小父さん」というのは、彼がボランティアで近所の幼稚園の鳥小屋を掃除していた時期に園児たちが付けた呼び名だった。ある事件のせいで幼稚園から拒否されるまで、彼の鳥小屋掃除は20年近く続いた。園児たちだけではなく他の人たちからも「小鳥の小父さん」と呼ばれるようになっていた彼だったが、鳥小屋掃除をやめてからは「ことり」と陰でこそこそ呼ばれたりした。これは彼の晩年の話である。
彼に初めて幼稚園の鳥小屋を見せてくれたのは、七つ年上のお兄さんで、それは彼が六つになったばかりのころだった。13歳のお兄さんは小鳥のことをとてもよく知っていて、弟にいろいろ教えてくれたが、お兄さんの言葉が分かるのは弟だけだった。学校の先生も、お父さんもお母さんも、近所の人たちも、みんなお兄さんの言っていることが分からなかった。なぜならお兄さんは11歳を過ぎたあたりから自分で編み出した言語でしゃべり始め、13歳のころにはその言語「ポーポー語」はすっかり完成されていたからだ。弟はそれ以来「ポーポー語」を話す兄と一緒に生きてきた。両親が亡くなった後もずっと。それは世間的に見れば寂しく孤独な人生といえるかもしれないが、「小鳥の小父さん」にとってはそれなりに充実した、ある意味では波乱万丈の人生だったのだ。

2012年発行の書き下ろし作品。(2016.1.23読了)
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by nishinayuu | 2016-04-15 10:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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