『盆栽/木々の生活』(アレハンドロ・サンブラ、訳=松本健二、白水社)


c0077412_9545223.jpg『Bonsái/ La Vida Privada de los Árboles』(Alejandro Zambra、2006)
作者は1975年にサンティアゴで生まれた詩人、作家、批評家で、10代の時エズラ・パウンド、ボルヘス、プルーストらに大きな影響を受けたという(本書カバーの作家紹介による)。

中南米の作家の作品は極彩色と熱気にあふれている印象が強いが、本書からは淡い色合いと静けさを感じる。前者が厚塗りの油絵とすれば、後者は淡彩の水彩画とでもいおうか。また、簡潔な文の連なりとそこから生じる余韻が、まるで詩を読むような心地よさを与える作品でもある。
本書には二つの作品が収められており、主人公はいずれも作者の分身と思しき青年である。彼らは恋人、あるいは妻にある日突然立ち去られてしまい、彼女らの行方を案じながら月日を重ねていくのだが、そこにはみじめさや悲壮さといったものはない。哀しみを胸に秘めて、ひたすら穏やかに生きていくのである。登場人物は以下の通り。
*『盆栽』——フリオ(作家志望の青年)、エミリア(学生時代のフリオの恋人。30歳の誕生日の直後にマドリードで自殺)、アニタ(エミリアの友人。太っているのに、あるいは太っているから?美人。マドリードへエミリアを探しに行く)、アンドレス(アニタの夫)、マリア(フリオの新しい恋人。40代の英語教師。レズビアンかもしれない。彼女もまたフリオの前から去っていく)、ガスムリ(作家。フリオに原稿清書のアルバイトを依頼しておいて直後にご破算にしたため、フリオは彼になりかわって小説『盆栽』を書き始める)。
*『木々の私生活』——フリアン(週日は大学で教え、週末に小説を書いている。書いているのは「盆栽を育てる若い男」の話)、ダニエラ(フリアンが育てている幼い娘。毎晩フリアンが読み聞かせる『木々の私生活』を聞きながら眠りにつく。フリアンの小説に成人後の姿で登場して継父フリアンを回想する)、ベロニカ(ケーキ職人。押しかけて来たフリアンの同居を許して夫とする。3年後のある日、絵画教室に出かけたまま戻らなかった)、カルラ(フリアンが以前同棲していた女性)、フェルナンド(ダニエラの実父)、エルネスト(ダニエラの未来に登場し、やがて消えていくことになる恋人)。

本書にはアルゼンチンの作家、詩人はもちろん、ほかの国の作家の名や作品がたくさん挙げられている。フリオとエミリアがともに「読んだ」と嘘を付き合ったプルーストの『失われた時を求めて』は少し前に再読もしたからいいとして、『盆栽』のエピグラフに引用されている川端康成の小説『美しさと哀しみと』は未読。ぜひ読むように、という訳者の勧めもあるので、読んでみなくては。(2015.10.9読了)
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by nishinayuu | 2016-01-26 09:55 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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