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『かげろう』(ジル・ペロー、訳=菊地よしみ、早川書房)

『かげろう』(ジル・ペロー、訳=菊地よしみ、早川書房)_c0077412_13391938.jpg『Le garçon aux Yeux Gris』(Gilles Perrault)

原題は「灰色の目の少年」。2001年のジョルジュ・シムノン賞を受賞したこの作品は「迷い人たち」というタイトルで映画化されているという。ジョルジュ・シムノン賞はシムノンの没後10年を記念して1999年に創設されたということだが、シムノン賞を受けたということから、この作品の傾向がある程度は予測できる。

「パイロットの薄笑いに彼女はショックを受けた」という文で始まるこの作品の舞台は1940年夏のフランス。ナチスドイツが北フランスに侵攻してきて、人々はいっせいに南に向かって避難を始める。その「大脱出」の列にドイツの攻撃機が襲いかかり、車や人々をズタズタにして行ったのだ。幼い娘に覆い被さり、道ばたの側溝に身を伏せていた「彼女」は、息子のフィリップが側溝から飛び出して麦畑の方にかけだしていくのを見てぎょっとする。そのとき一人の少年が飛び出していってフィリップをつかまえると、側溝に引き戻していっしょに身を伏せた。次の攻撃が始まる。今度は機銃掃射ではなく、砲弾による攻撃だった。
爆撃のもたらした凄まじい光景をあとに、フィリップの手を引いた15、6歳の少年は麦畑に向かって走って行く。空いている方の手で、「彼女」についてくるように素っ気ない合図を送ってきた少年に腹を立てながら、「彼女」はフィリップを取り戻すという思いに駆られて二人のあとを追う。街道沿いの無人の集落を抜け、森を抜けて、四人は見捨てられた大きな田舎屋にたどり着く。そしてこの家で、「彼女」と子どもたちは少年に助けられながら避難生活を始める。子どもたちは少年になつき、はじめは警戒していた「彼女」もしだいに少年を頼りにするようになっていく。やがてある事件をきっかけに少年は男となり、「彼女」は女となる。

「彼女」は夫を戦地に送り出したあと、10歳の息子、6歳の娘といっしょにパリで暮らしていた女性である。その「彼女」の目を通して物語は進行する。風体も奇妙で得体の知れない警戒すべき存在だった少年が、いつのまにかみんなのために食糧をはじめとする必需品を調達してくる頼もしい存在となっていき、子どもたちには頼もしい兄となり、「彼女」には誠実な愛人となる。若く美しい人妻が戦争の混乱のなかで出会った美しい愛の世界は、しかし、意外な結末を迎えることになる。それでも、幻想から覚めた彼女の前に立っている少年は、あくまでも誠実できまじめな少年だった。(2015.9.12読了)
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by nishinayuu | 2015-12-25 13:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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