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『風の丘』(カルミネ・アバーテ,訳=関口英子、新潮クレストブックス)


c0077412_962241.jpg『La Collina del Vento』(Carmine Abate, 2012)
物語は6月のある日、アルクーリ家の三兄弟が数発の銃声を聞くところから始まる。兄弟は銃声のしたロッサルコの丘に急ぐ。丘のてっぺんで母親が一人で野良仕事をしていたからだ。兄弟が駆けつけた時、母親はラバの端綱を握って斜面を降りてくるところだった。何があったのかと問う子どもたちに母親は、何もありゃしない、と笑顔を取り繕い、家に帰ろう、とせき立てる。上の二人は安堵してラバに跨がったが、好奇心旺盛な8歳のアルトゥーロは,丘の頂上まで駆け上がり、そこで真っ赤な血だまりの中で二人の若者が死んでいるのを見てしまう。生涯忘れられない光景だったが、両親は、誰にも口外しないこと、そして忘れてしまうこと、とアルトゥーロに約束させる。こうしてこの出来事は真相不明のまま、アルクーリ家の「家族の秘密」として秘かに父から子へと引き継がれていく。
舞台はイタリアの南端カラブリア州にあるスピッラーチェという架空の村。その村の外れにあるロッサルコの丘を唯一のよりどころとして慈しみ,その丘に慈しまれて暮らすアルクーリ家の四代にわたる人々の営みが綴られていく。一代目は硫黄鉱山に出稼ぎに出ていたが例の事件の日からは家族の許を離れなかったアルベルトとその妻ソフィア、二代目は兄二人が戦死したために家を継ぐことになったアルトゥーロとその妻リーナ、三代目は大学まで進んで村で教師になったミケランジェロと、その妻で考古学者のマリーザ、そしてミケランジェロの妹で「絵描き屋さん」のニーナベッラ、四代目はトリノ育ちのリーノとその妻シモーナである。第1次世界大戦前夜から現代にいたる彼らの暮らしは、時には横暴な地主に,時には暴虐なファシズム政権に、時には悪質な開発業者に脅かされるが、彼らは誇り高く、そして頑固に自分たちの大切な丘を守り続ける。そんな彼らの丘にはもう一つ、古代遺跡という大きな秘密が埋もれていたのだった。

個性あふれる登場人物、美しい光景、おいしそうな食べ物にあふれた,本当に魅力的な物語である。
たとえばロッサルコの丘は次のように描写される。
丘は,海の手前で逆さにひっくり返された船を連想させる湾曲した細長い形をしていて、スッラ(豆科の多年草)の緋色で一面彩られていた。そのまわりを、果樹、乳香樹の茂み、月桂樹、金雀枝(エニシダ)、ローズマリー、庭常(ニワトコ),ぶどう畑、オリーブの巨木、ところどころに群生するフィーキ・ディンディア(ヒラウチワサボテン)などがぐるりと取り囲み、陰になった斜面は常磐樫の森に覆われ、たわんだ半円の冠のようだった。
(2015.8.8読了)
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by nishinayuu | 2015-12-01 09:07 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2015-12-05 20:50 x
南イタリアは家族の絆が強い所のようですね。小説は読んだことがありませんが、映画でいろいろ見ました。庶民の名もない家系であっても家族の歴史や絆に誇りをもっているのが伝わってきました。都市化がそうした古い共同体や情緒の解体に向かっているのは寂しいですね。
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