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『ありふれた祈り』(ウィリアム・ケント・クルーガー、訳=宇佐川晶子、早川書房)


c0077412_10123547.jpg『Ordinary Grace』(William Kent Kruger, 2013)
物語の舞台はミネソタ州南部に位置するスー郡のニューブレーメンという架空の町。牧歌的雰囲気の町だが、先住民族への差別意識が根強く残る保守的な町でもある。町は富裕層の居住する高台のザ・ハイツと、非富裕層の居住するミネソタ川沿いの低地ザ・フラッツというふたつの地区に分かれている。語り手のフランク・ドラム(13歳)の家はザ・フラッツにあるが、一家の暮らし向きは裕福ではないにしても、貧しさとは無縁である。家族は牧師の父ネイサン、教会の聖歌隊を率いる母ルース、ジュリアード音楽院への進学を考えている姉アリエル、そして吃音に悩む2歳下の弟ジェイクの5人。

プロローグは「あの夏のすべての死は、ひとりの子どもの死で始まった」という暗い展開を予想させる文言で始まるが、そのあとしばらくは、この一家の特に変わりのない日常が語られていく。したがって前半はミステリーというよりも「児童文学」もしくは「家族小説」といった雰囲気で進んでいく。その雰囲気を一変させるのが、両親の、特に母親の秘蔵っ子であり、弟たちにとっては太陽のような存在であったアリエルの失踪である。この部分は「1961年7月4日独立記念日の夜、アリエルは家に戻らなかった」という印象的な文で提示される。家出か、事故か、事件に巻き込まれたか。その真相と原因・理由、関わった人物などをめぐって、一家とそれを取り巻く人々の苦悩の時間が流れだす。

本書の帯の惹句に「全米4代ミステリー賞で最優秀長編賞を独占!」「大人の世界の入り口に立った少年たちを描く、傑作ミステリー」とある。これに加えてさらに、「強い絆で結ばれ、互いを認め合い、許し合い、共に前進する勇気を勝ち得た大人たちをも描ききった傑作」といいたい。特に牧師のネイサンという、幾度となく過酷な試練に曝されながら、そのたびに強靱な精神力で立ちあがり続ける人間離れした人物の像は忘れ難い。(2015.6.21読了)
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by nishinayuu | 2015-10-22 10:13 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2015-10-22 20:57 x
ニューヨークのような大都市ではなく、農村の雰囲気が残るような田舎に舞台が据えられているのは、今なお家族や近隣との絆が生き生きと感じられるからなのでしょうね。読んでみたくなります。
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