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『チボー家の人々 10』(マルタン・デュ・ガール、訳=山内義雄、白水Uブックス)

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『Les Thibault10- L’Été 1914 Ⅲ』(Martin du Gard)

シリーズの10巻目である本書には1914年7月28日(火曜日)から8月1日(土曜日)までの出来事が綴られている。

28日、ジャックは秘密の任務を帯びてベルリンに赴き、ポツダム広場のある店で同志のトラウテンバッハと落ち合う。オーストリアのシュトルバッハ大佐がオーストリアとドイツ両国の参謀本部の共同動作をはっきりさせる秘密命令を持って訪独したことをかぎつけたトラウテンバッハは、その秘密命令の書類をくすねるという大胆な計画を立てていた。その書類をジャックがメネストレルに届け、メネストレルはその書類の重要性いかんによって、29日にブリュッセルに集まっているインターナショナルの指導者たちに知らせる、という手はずになっていた。盗んだ書類と偽の身分証を携行してドイツ領内を通り抜けるという危険をおかしてジャックが届けたその書類を、メネストレルはなぜか他の人と一緒に点検することをせず、自室に持ち込んでしまう。そしてその夜、パタースンはフレダ(メネストレルの愛人)と駆け落ちし、翌朝メネストレルのもとを訪れたジャックはシュトルバッハの書類が焼かれた痕跡を発見する。フレダを失ったメネストレルは壊れてしまい、スイス革命家集団は指導者を失ってしまったのだ。戦争の脅威と情報の混乱の中で、戦争反対と民衆運動の揺るぎない指導者であったジョーレスが、ジャックとジェンニーの目の前で凶弾に倒れる。

当時のヨーロッパの情勢が登場人物たちの言動を通してまるでドキュメンタリーのように綴られていくと同時に、ジャックとジェンニーの愛がそんな中にありながら、というかそんな中だからこそ確固たるものになっていく過程が編み込み模様のように織り込まれていく。国防の義務についてのアントワーヌとジャックの議論も、二人の持って生まれたものの根本的な違いを明らかにしていて興味深い。
なお、実在の人物であるジョーレスについて、簡単にメモしておく。
Jean Jaurès(1859~1914.7.31)フランスの社会主義者、政治家。穏健共和主義から1890年代に社会主義に転じたが、急進的マルクス主義派とは対立。1904年にHumanitè(ユマニテ)誌を創刊。大衆的人気を誇る雄弁家でもあった。第一次大戦直前、ナショナリズムが高揚する中で帝国主義戦争に断固反対を唱えて和平を呼びかけたが、狂信的な国家主義者によって放たれた銃弾に倒れた。その死の翌日、第一次大戦が勃発し、フランスは総動員体制に入った。
(2015.8.14読了)
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by nishinayuu | 2015-10-02 17:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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