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『マクベス』(シェイクスピア、訳=野上豊一郎、岩波書店)

c0077412_17202549.jpg『Macbeth』(Shakespeare, Greenwich House)
この戯曲は1606年頃に完成したもので、1603年に王位に就いたジェームズ一世のための「天覧劇」として書かれたと推定されている。ジェームズ一世は元来スコットランドの王だが、母方の血がイギリス王室に繋がっていたことから、後継者のなかったエリザベス女王のあとを継いでイングランド王を兼ねることになったのである。それで、新しい王を称えるために、かつてスコットランド王家への反逆者だったマクベスの転落劇が描かれたものと考えられる。
戯曲的構成の緊密さと事件の急速な進展という点で『ジュリアス・シーザー』と並ぶ傑作とされるこの作品には、強烈な印象を与える場面と台詞があふれている。その一部を原文(日本語訳、話者、幕-場)の順に記しておく。
*Fair is foul, and foul is fair(きれいはきたない。きたないはきれい。妖女、1-1)
*Lesser than Macbeth, and greater./Not so happy, yet much happier./Thou shalt get kings, though thou be none: (マクベスよりは小さくて大きい。マクベスほどに運はよくないが、ずっと運がよい。王にはなれないが、代々の王を生む。妖女たちがバンクォーに、1-3)
*The prince of Cumberland! ---that is a step/ On which I must fall down, or else over-leap, /For in my way it lies. Stars, hide your fires!/ Let not light see my black and deep desires: (カンバランド公。――踏み段が一つできた。そこで倒れるか、飛び越えるかだ。何しろおれの行く手にできたのだから。星よ、お前たちの火を隠せ。おれの黒い深い望みを光に見せないでくれ。マクベスの傍白、1-4)
*Thou wouldst be great;/ Art not without ambition;---thou wouldst have, great Glamis,/ That which cries, Thus thou must do, if thou have it; (あなたはえらくなりたがる。野心がなくはない。---あなたの欲しがっているもの、それは斯ういって叫んでいます。「欲しくば断行しなけりゃいけない」と。マクベス夫人、1-5)
*Methought, I heard a voice cry, Sleep no more!/ Macbeth does murder sleep! (なんだかこんな声が聞こえたような気がした。「もう眠れないぞ。マクベスはねむりを殺した。」マクベス、2-2)
*Macbeth shall never vanquished be, until/ Great Birnam wood to high Dunsinane hill/ Shall come against him. (マクベスは決して敗れるということはないぞ。大きなバーナムの森が高いダンシネインの山の方へマクベス目がけて攻めかからない限りは。妖女の集会に現れた幻影、4-1)

第2幕に、ダンカン王を倒したマクベスが「すでに指名もすんで、着衣のためにスクーンへ行かれた」とマクダフが言うところがある。スクーン(Scone)はスコットランドの旧都で、そこの修道院に「スクーンの石」があり、代々のスコットランド王の戴冠式はこの石を玉座にして行われた。以前upした『運命の石』(こちら→)はこの玉座をめぐるミステリータッチの作品である。
今回あらためて読んでみて感じたことは、悪の首魁はあくまでもマクベスその人だということだ。血まみれの手の故に残忍冷酷な女という印象を与えてきたマクベス夫人は、夫の栄達(それに付随するであろうわが身の栄達)を願うあまり、内助の功が行き過ぎてしまっただけなのではないか。それというのも、自らは手を下さずにダンカン王殺害に成功して王位を簒奪したマクベスは、バンクォーの亡霊におびえながらも邪悪さをエスカレートさせているのに対して、夫人の方は精神的に立ち直れないほどの打撃を受けているからだ。(2015.5.9読了)
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by nishinayuu | 2015-09-08 17:24 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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