『黄色い犬』(ジョルジュ・シムノン、訳=宮崎嶺雄、東京創元社)


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『Le Chien Jaune』(Georges Simenon, 1931)
多くの筆名を持つ多作の作家シムノンは1931年、28歳の時に本名に戻り、新たな決意で再出発した。本作はこの記念すべき年に書かれた11冊の中のひとつであり、この年に新たに創造された主人公メグレが活躍する。

舞台はブルターニュ半島の南岸にある漁港コンカルノー。ここで立て続けに怪事件が起こるのだが、始まりは11月7日、金曜日の夜。一人の男が海岸通りの角にある《提督》ホテルのカフェをのぞき込んだあと、また烈風の中に出ていく。近くの監視所で当直の任に当たっていた税関吏が、すっかりご機嫌のていで足もとの定まらないその男を見てほほえむ。男が風に掠われそうになる外套や山高帽と格闘しながら葉巻に火を付けようとしていて、マッチを10本以上無駄にしているからだ。とある玄関口を見つけた男はそこで身をかがめる。マッチの火がぱっと輝いてすぐに消え、男がよろめく。それから男の身体は不自然に傾いて歩道の縁に倒れ込む。1、2分経っても男は動かない。どこからか黄色い大きな犬が寄ってきて、男の身体をかぎ回している。そのときになって初めて税関吏は何かが起こったことに気づき、《提督》ホテルに駆けつける。
ホテルのカフェはほとんど空っぽで、女給エンマの他にそこにいたのは、ル・ポンムレ(デンマーク副領事、漁色家)、セイヴィエール(新聞記者)、ドクトル・ミシュー(土地会社の支配人)ら町の名士たち。被害者モスタガン(酒類取引商)のために医者と警察官が呼ばれる。税関吏についてカフェに入ってきて女給の足もとに寝そべっていた黄色い犬が、人々の脚の間を歩き回る。警察の連中は唯一の目撃者である税関吏を尋問したり、事件の起きた玄関口を調べたりする。特に進展はないので、集まった野次馬たちも引き上げていく。そして翌朝、コンカルノーの市長から急報を受けたメグレ(司法警察の警部)が、ルロア(司法警察の若い刑事)を連れて乗り込んでくる。さて――。

以上のように主要人物が冒頭の場面でほぼ勢揃いするが、一連の事件の鍵を握る重要人物だけはなかなか登場しない。また、人物が勢揃いして次々に事件が発生する間、ヒントらしきものも伏線らしきものもあまり示されない(わかる人にはわかるのかな?)。登場人物の中の一人が、「早く解決しろ」とメグレにせっつくが、同調したくなる。 (2015.5.3読了)
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by nishinayuu | 2015-08-31 10:13 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2015-09-06 08:34 x
前回のコメントは間違いがありました。これを載せてください。伏線をたくさん敷くほど著者が一番楽しんでいる感じがします。
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