『だから荒野』(桐野夏生、毎日新聞社、2013)


c0077412_10565861.jpgこの作品の初出は毎日新聞朝刊(2012年1月1日から2012年9月15日まで連載)で、単行本化に当たって大幅に加筆・修正されたという。またドラマ化されて、NHK-BSの日曜夜22:00~22:49に全8回で放送された。このドラマを何気なく見始めたらけっこう面白くて、5回くらいまでは見たのだが、終わりの方は見損なってしまった。最後がどうなったか気になったので原作を読んでみた。その結果、ドラマと原作にもいろいろ相違点があることが判明。結局『だから荒野』という作品には三つのヴァージョンがあるわけだが、大筋は、一人の女性の自分探しの旅を描いたロード・ムービーであり、家族の崩壊と再構築の物語である。
物語の冒頭でヒロインの森村朋美は46歳の誕生日を迎える。家族の誰も誕生日を祝ってくれそうもないので、朋美は自分で新宿のレストランを予約し、夫の浩光と長男の健太、次男の優太を誘う。ところが、念入りに化粧をし、この日のために用意した若々しいチュニックに着替えた朋美を、家族はうんざりしたような目で見るばかり。高1の優太は一緒に出かけることさえ拒否。浩光は浩光で、いつも通りに朋美が運転するものと決めてかかっている。誕生日の朋美にお酒を楽しませてやろうという気遣いは全くないのだ。さらに、グルメサイトに投稿してそれなりの評価も得ているらしき浩光は、朋美の予約したレストランにあれこれ難癖をつけはじめる。このとき朋美ははっと気づく。朋美は家族の誰にとっても大切な人間ではなくなっていたのだ。それなら、と朋美は食事を中断して席を立つ。家族という「荒野」を捨てて一人で車に乗り込んだ朋美は、どこかにあるに違いない「沃野」を求めて走り出す。高速道路に乗って遠い長崎に向かう1200㎞の長い旅がはじまったのだ。

はじめはヒロインの視点で描かれているが、次第に夫や子どもの視点も取り込まれてきて、女には見えていて男には見えないもの、逆に女から見ればつまらないことでも男には大事なこと、などが浮かび上がってくる。なんの取り柄もないだめ主婦のように思えた朋美がきっぱりした大胆さ(長崎の語り部老人・山岡のいう「猛々しさ」)の持ち主だったこと、無神経で自己中でどうしようもない夫に思えた浩光にも同情すべき点がなくはないこと、健太にも優太にもそれぞれ事情や言い分があることなどを、巧みな展開の中で納得させてくれる作品である。(2015.4.14読了)
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by nishinayuu | 2015-07-22 10:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2015-07-25 17:58 x
桐野夏生はどこにもいるようなおばさんの秘められた力を描くのが上手ですね。以前「out」を読んで日常のうんざりした繰り返しと意外な展開に関心しました。これもおもしろそうですね。
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