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『最後の瞬間』(レーオンハルト・フランク、訳:吉田正巳、河出書房新社)


c0077412_10583246.jpg『Im Letzten Wagen、1925』(Leonhard Frank)
原題の意味は「最後部の客車で」。作者はドイツ生まれの小説家で、第1次大戦のときに反戦・平和主義を表明してスイスに亡命。その後ドイツに戻ったがナチのために禁書にあい、スイス、フランスを経てアメリカに亡命し、55年に帰国したという(巻末の解説より)。

舞台は、ドイツで一番高いところにある保養地の駅を出発した貨物列車の最後部に連結された客車。線路は螺旋を描きながら谷底に下りていくようになっていて、途中には有名な高架鉄橋がある。塗装し立てでぴかぴか光っている客車に乗り合わせたのは、高山の保養地に4週間逗留してすっかり元気を取り戻した青年銀行家、おめでたの間近なその妻、儲かる取引が成立して上機嫌の小間物の外交販売員、もの悲しげで誠実そうな高位のカトリック僧、将校、にこやかながらことさらに沈黙がちの大学教授、編集長、製材所で開かれた労働者の集会に党から派遣されてきた社会主義者、社会主義者に議論を吹きかけて追い詰めようとする検事、検事と組んで社会主義者を尾行しているX脚の男=刑事、検事志望の年配の学生、前の日に製材所を解雇された製材工など。彼らの間であれこれの話が交わされ、それによって各人の立場や人柄、この時代の社会の様相などが浮かびあがってくる、という形で列車の旅は進行していく。ところが突然、客車内に衝撃が走る。彼らの乗っている最後尾の客車が、いつの間にか貨物列車から切り離されていたのだ。ブレーキを掛けながらゆっくりと谷底へ下っていくべきなのに、列車から切り離された客車は今や猛スピードで下り始めていた。そのとき乗客たちははっと気がつく。このスピードではカーブを描く例の高架鉄橋を無事に通過できるはずはないことを。

後半はまさにパニックドラマ。谷底への転落、もしくは前を行く貨物列車との衝突の恐怖に乗客たちはどう対処するか、急に産気づいた銀行家の妻はどうなるか。風光を楽しむための列車が恐怖の列車へと急変する、迫力満点の小説である。(2015.3.3読了)
☆この作品は『サマセット・モーム編 世界文学100選』(1961)を再編集した『世界100物語5 意外な結末』(1997)で読みました。
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by nishinayuu | 2015-06-12 11:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2015-06-20 17:54 x
映画で見たことがあるような既視感を感じる作品ですね。タイトルからすると、みんな死んだんでしょうか。いずれ読んでみましょう。
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