『アビー夫妻の苦労』(E.M.フォースター、訳:松村達雄、河出書房新社)


c0077412_704964.jpg『Mr. and Mrs. Abbey’s Difficulties』(E.M. Forster)
アビー夫妻は、母親の死に引き続く祖母の死によって遺児となった兄妹4人の後見人。アビー氏は、まだ7歳だった末っ子のファニーを自分たち夫婦で養育するためにウォールサムストウの自宅に引き取った。「もう充分な教育がすんでいた」16歳のジョンには学校を止めさせて外科医の見習いをさせることにし、13歳のジョージと11歳のトムは自分の店に店員として引き取った。アビー氏としては、4人のためにてきぱきと適切な処置をとったのだった。ところが残念なことに、4人はふらふらとして落ち着きがなく、気まぐれな趣味にふける金をいつもせがむのだった。しかしアビー氏は、彼らに残された8000ポンドを彼らの将来を思って再投資してしまっていたので、彼らの要求を受け入れるわけにはいかなかった。彼らが互いにやりとりする手紙だけでも嘆かわしいほどの費用が嵩んだ。しかも彼らの手紙ときたら、アビー夫妻にはわけがわからない下らない内容だったり、不親切を当てこすったり、ときにはアビー夫人を馬鹿にしているとしか思えないものもあった。それでアビー夫妻はファニーが兄たちやその仲間たちとの交流するのを警戒するようになる。それやこれやのやっかいごとでアビー夫妻の苦労は絶えないのだが、アビー夫妻の後見人としての気遣いや努力は遺児たちには全く理解されず、かえって彼らはアビー夫妻への不信感を募らせていく。

この作品は、芸術家の心情や生き方が全く理解できない実務家・アビー夫妻の「苦労」を物語りつつ、想像と創造の世界に生きる兄妹たちの姿を浮き彫りにしたものである。登場人物のジョン、ジョージ、トム、ファニーはロマン主義の詩人ジョン・キーツその人とその弟妹。アビー氏は実際にキーツ兄妹の後見人だった人物。作中の2通の手紙も実際にキーツがファニーに送ったものがそのまま使われている。この作品を書きながら作者フォースター自身も大いに楽しんだのではないだろうか。アビー夫人が「悪ふざけが過ぎる」と感じた詩(キーツの作品)の原文(と本作中の訳)は以下の通り。

Two or three Posies (二つ三つの花束、)
With two or three simples___ (二つ三つの薬草もまじって――)
Two or three Noses (二つ三つの鼻)
With two or three pimples___ (二つ三つのにきびも見えて――)
Two or three sandies (二、三人のスコットランド人)
And two or three tabbies (二、三人のいじわるばあちゃんもまじえて)
Two or three dandies (二、三人の伊達男と)
And two Mrs.___mum! (二人のミセス――、シッ、ないしょ!)
(2015.2.28読了)
☆この作品は『サマセット・モーム編 世界文学100選』(1961)を再編集した『世界100物語5 意外な結末』(1997)で読みました。
[PR]
by nishinayuu | 2015-05-21 07:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/24130212
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『目に見えないコレクション』(... 『若き日の悲しみ』(トーマス・... >>