『A.V. レイダー』(ビアボーム、訳:中田耕治、河出書房新社)

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『A.V. Laider』(Max Beerbohm)
この作品は『世界100物語5』の中の1編で、30ページほどの短編。作者のビアボーム(1872~1956)については、『世界大百科事典』第2版に次のような説明がある。

イギリスの随筆家、小説家、風刺画家。オックスフォード大学在学中から《イエローブック》誌上に軽妙痛烈な戯文、風刺画を発表。早熟な才人としてじゃーなりずむにむかえられた。1898年にはG.B.ショーのあとを受けて《サタデー・レビュー》紙の劇評を担当した。戯曲集《詩人の一隅》、《五十の戯曲集》、《ロセッティとその一派》などは、誇張によってかえって実像の浦にある本質を引き出す奇妙な味わいを醸し、独自の世界を形成した。

語り手は、療養のために滞在していたホステルで、同じく滞在中のA.V.レイダーという人物とことばを交わすようになる。手相占いを信じる、信じないという話をきっかけに、レイダーは自分も巻き込まれた衝撃的な事故の話をする。レイダーが「私は事故を未然に予知していながらなんの行動も起こさなかった。私は殺人者だ」と言うのを聞いた語り手は、彼の思い違いということもありうる、という趣旨の慰めの手紙をあとでレイダーに送った。1年後、語り手が同じホステルに行くと、語り手が出したレイダー宛ての手紙が読まれないまま郵便受けの中で古びていた。ところがその手紙が消えた。同じホステルに、またレイダーもやって来たのだった。そして二人がまた話を交わすことになって語り手にわかったのは、レイダーという人物があきれるほど巧みなストーリー・テラーだということだった。

たまたま同じホステルに滞在した男とことばを交わすようになる過程、男が語る衝撃的事故の顛末、男との会話に次第に引き込まれていく語り手の心の動きなどなどが、終始テンポよく巧みに綴られていく。終わり方も洒落ていて、サキの『The Open Window』と甲乙付けがたい上出来の短編である。(2015.2.4読了)
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by nishinayuu | 2015-05-09 09:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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