『ピッポ・スパーノ』(ハインリヒ・マン、訳:吉田正己、河出書房新社)

c0077412_1615857.png『Pippo Spano』(Heinrich Mann)
タイトルのピッポ・スパーノは実在する歴史上の人物で、14世紀の末から15世紀初めにかけてハンガリーで活躍したイタリー出身の軍人。イタリアの画家アンドレア・デル・カスターニョ(1421~1457)の描いたフレスコ画にその姿を留めている。本作では主人公のマリーオ・マルヴォルトの書斎に実物より大きい肖像画が掲げられており、主人公がそれに向かって次のように語りかける。
「君が、敵するものもないほど勝利を収めるすべを知っているところからすると――おそらく君は、おそろしくひどいことやっつけられたことがあるのだろう。それにちがいない!君はどんなにか悩んだにちがいないのだ。(中略)そのようなぞっとする深淵があればこそ、これほど輝かしい高みに達することができるものさ。さあ君、トルコ軍をうちやぶった勇士!しらばくれてもだめだ――いくらそうしても、おれには、君が一撃を見舞われたときの、君の狂乱した叫びが聞こえるのだ。友人に裏切られて、君が血を滴らせる姿が見えるのだ。女がとがった指先で君の胸の中をかきまわすたびに、君が経験したあの苦痛の陶酔を、おれは感じ取ろうとしているのだ」

マリーオ・マルヴォルトが肖像画に向かってさらに、自分の芸術によって異質の美、異質の苦痛を体験したいのだ、だから君が愛せるような女こそは、自分が憧れる最上の女性であり、その女は最後の女として自分の前に近寄ってくるのだ、そうじゃないかね、と声を高めて語りかけたとき、女が現れる。

作者は1871年にドイツのリューベックで生まれ、1950年にアメリカで没した小説家。トーマス・マンは弟。主要作品の一つ『ウンラート教授』は『嘆きの天使』というタイトルで映画化されている。(2015.1.21読了)
☆この作品は『サマセット・モーム編 世界文学100選』(1961)を再編集した『世界100物語5 意外な結末』(1997)で読みました。確かに意外な結果で終わります。
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by nishinayuu | 2015-05-05 16:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by マリーゴールド at 2015-05-05 19:39 x
喜劇的な結末かしら?
Commented by nishinayuu at 2015-05-06 00:05
「意外な結末」となっているので、種明かしはしないほうが……
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