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『愛のはじまるとき』(K.M.ペイトン、訳:石井清子、晶文社)


c0077412_1132671.jpg『Dear Fred』(K.M. Peyton, 1981)
これは一人の少女が競馬界の人たちとの関わりの中で大人になっていく姿を描いた作品である。13歳の少女ローラは、陳腐な芸術家の父や笑いを忘れた母のところにいるよりも、競馬馬を育てている叔父のハリーのそばにいるほうが楽しい。叔父といっしょに馬を走らせるのも大好きだ。そして「イングランド中の女たちの半数」が愛している天才ジョッキーのフレッド・アーチャーと結婚したいと思っている。フレッドはローラと顔を合わせればていねいに挨拶してくれるが、彼は誰に対しても礼儀正しい若者だった。ある日、浮浪児のような少年が転がり込んでくる。身元を明かさないので、ローラがタイガーと呼ぶことにしたこの少年は、ハリーの許に身を寄せることになる。やがてローラとタイガーは小さないさかいを繰り返しながらも急速に親しくなっていく。そしてある日、二人は偶然、叔父のハリーとローラの母の密会を目撃してしまう。そこにはローラの見たことのない笑顔を見せ、ローラの聞いたことのない声を上げる一人の女がいたのだった。

フレッド・アーチャーは1880年代に英国競馬界を湧かせた実在の天才ジョッキー。「その悲劇的生涯を下敷きに」と作品の紹介にあるうえ、作品の中でも早い段階で、予知能力を持つタイガーがフレッドを襲う悲劇を予知してしまう場面が出てくるので、そのあとの物語は推理小説のような緊迫感をもって展開していく。なお、作品の冒頭の献辞に「フレッド、ネリー・アーチャー夫妻のお孫さんたちへ」とあるので、注意深い読者ならローラの幼い恋の行方を前もって知ることができる(知らないほうが読む楽しみは大きいと思いますが)。

著者はキャスリーン・ペイトンといい、ペンネームのK.M. ペイトンは、キャスリーンのKと、美術家である夫マイケルのMをとったもの。初期に二人が合作していたことがあり、そのときのペンネームをそのまま使っているのだという。(2015.1.25読了)
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by nishinayuu | 2015-04-16 11:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2015-04-16 22:59 x
イギリスでは競馬に人気がありますね。母の不倫と初恋の相手の悲劇の予感、それだけで物語の展開が気になります。読んでみたいですね。
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