『火曜日の手紙』(エレーヌ・グレミヨン著、池畑奈央子訳、早川書房)


c0077412_13192529.jpg『Le confident』(Hélène Grémillon, 2010)
1975年のパリ。母の葬儀を終えた雑誌記者のカミーユのもとに差出人の名前のない一通の手紙が届く。弔慰の手紙に紛れこんでいたその一通は、封を切る前から目を引いた。他の封筒よりずっと分厚く重みがあって、およそ弔慰の手紙に似つかわしくなかったからだ。封を切ると、中から便せん何枚にも書かれた長い手書きの手紙が出てきた。手紙はこう始まっていた。

アニーはいつも私の人生の一部だった。アニーが生まれたとき、私は2歳、いや、正確には2歳になる数日前だ。私たちはNという村で暮らしていた。学校や散歩の途中や教会のミサで、私は、期せずして、よくアニーと一緒になったものだ。

手紙の書き手はルイという男性で、手紙は「(ヒトラーが総統となってナチの一党独裁が確立され、第二次世界大戦が忍び寄っていた)あの年、世界の中心に、私とアニーがいた。私は無邪気にも、自分たちは歴史のうねりに飲み込まれないと思い込んでいたのだ」という言葉で締めくくられていた。何かの間違いで届いたとしか思えない手紙だったが、差出人の住所も名前もないので送り返すこともできず、転居を控えて忙しかったこともあって、カミーユは手紙をそのまま放って置いた。ところが1週間後に2通目の手紙が届き、ルイとアニーの物語が続いていく。そう、それは手紙というより、誰かに読ませるために書かれた物語だった。その後も毎週火曜日、カミーユのもとに分厚い封書が届き続け、カミーユはおよそ関わりのない人々の物語に次第に引き込まれていき、やがて、自分もこの物語の一部なのではないか、という疑いを抱き始める。

物語はミステリー・タッチで進行し、さりげない登場人物があとで重要な意味を持って立ち上がってきて、大きな驚きと心地よい感動が味わえる。また、印象的なのは、いくつかのアルファベットに重要な意味がこめられていること。たとえば村の名前として書かれているN、豪邸に住んでいた夫妻の頭文字M、カミーユの姓Werner(ヴェルネール)の頭文字W、ルイの綴り字に現れる小文字と同じサイズの大文字のR……。
時代の特殊性によって増幅された歪んだ社会通念とそれによってもたらされた狂気、愛と裏切り、許しと再生、を綴ったこの作品は、数々の文学賞を受賞し、フランス国内でベストセラーになり、25カ国語に翻訳されているという。(2014.12.21読了)
[PR]
by nishinayuu | 2015-03-19 13:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/23718273
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by マリーゴールド at 2015-03-19 22:01 x
ぐっと引き込まれる設定ですね。
<< 『Hamlet』(Shakes... [ミラボー橋](ギョーム・アポ... >>