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『マーブル・アーチの風』(コニー・ウィリス著、大森望訳、早川書房)


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『The Wind of Marble Arch and Other Stories』(Connie Willis)
作者は1945年コロラド州デンヴァー生まれ。1992年に発表した『ドゥームズディ・ブック』で数々の賞を獲得し、SF界の女王の地位を確固たるものにしたという。本書は日本オリジナルの短編集で、近年発表された中短編5編が収録されている。

『白亜紀後期にて』――経営合理化の嵐にさらされた大学教育の現場を舞台にした近未来小説。十年一日の如き講義を続ける古生物学の老教授の運命が、講義のテーマである大型肉食恐竜の運命と重ねられる。
『ニュースレター』――ニュースレター(1年間の出来事を綴った家族新聞)は、クリスマスシーズンに親族や知人に送られる。デンヴァーを舞台に、ちょっとした異変を宇宙人の侵略と思い込んだ主人公。やがて思い込みが確信に変わる現象が次々に現れて……。
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』――原題はdeck.halls@boughs/holly。クリスマスソングのdeck the halls with boughs of holly(メロディーは賛美歌第2編129番)からとったアドレスを持つ会社に籍を置く女性を主人公とするラブコメディ。驚くべき教養と超人的ヴァイタリティを持つ主人公の活躍ぶりが痛快。
『マーブル・アーチの風』――妻のキャスとともに20年ぶりにロンドンを訪れたトムは、地下鉄のチャリング・グクロス駅のホームで爆風に襲われる。ホルムアルデヒドや死臭を伴う爆風だった。その後もトムは地下鉄のあちこちの駅で同じ爆風に襲われる。トムは探究心に駆られていくつもの路線に乗ってみる。しかしキャスは地下鉄を忌み嫌って乗ろうとしない。キャスはすでに20年前に、爆風とともにやってくる死と恐怖と絶望の匂いを感じとっていたのだった。
『インサイダー疑惑』――インチキを暴くことを仕事にしているキルディの今回のターゲットは、霊媒とチャネリングできると標榜して荒稼ぎする女詐欺師アリオーラ。アリオーラのセミナーに潜り込んだキルディが目にしたのは、「アメリカのニーチェ」の異名を取るH.L.メンケンの語録を淀みなく口にするアリオーラの姿だった。オカルト詐欺や偽科学を攻撃し続けたメンケンの霊がアリオーラに憑依したとは、アリオーラは本物の霊媒なのだろうか。

日本語訳は通向け、というかマニア向けというか、この手の作品を読み慣れていない人間には不親切なものとなっている。たとえばこんな具合。
聴衆の中にスケプティックがいると、サイキックはそれを失敗の口実にすることが多い。
(アイシスは)きっと新しいギミックを使うチャネラーなんだろう。アイシスとチャネラーをネットでクロス検索した。

スピード感があって読みやすいのは確かだが、一瞬、原文を読んでいるような錯覚に陥る。
それはそれとして、特に「笑える」部分を2カ所、以下に記しておく。
1.チャネリングで接触する “媒体”は、どうしてみんな英国風のアクセントで、謹呈聖書の英語をしゃべるんだろう。
2.良心とは、結婚から何年経っても家を訪ねてくる義理の母親である(メンケン語録から)。

(2014.12.13読了)
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by nishinayuu | 2015-03-07 09:10 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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