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『運命の石』(ナイジェル・トランター著、杉本優訳、大修館書店)


c0077412_10454636.png『The Stone 』(Nigel Tranter, 1958)
「運命の石」とはスコットランド王国の戴冠の玉座のこと。1296年にイングランド王・エドワード1世がスコットランドを征服してこの石をスクーン修道院から持ち去り、イングランド国王の戴冠式に使われる玉座に据えた。それ以来、イングランド王は戴冠の際にこのスコットランドの石に座ることによって、イングランドの王位とともにスコットランドの王位も継承するイギリス連合国の王であることを世に示した。長い間スコットランドにとっては屈辱のシンボルであったこの石は、1996年に当時の英首相・メイジャーによってスコットランドに返還され、現在はエディンバラ城に展示されている。ところがスコットランドには、「エドワード1世が奪っていった石は贋物で、本物の石はずっとスコットランド内にあった」という「運命の石贋物説」があって、それにまつわる伝説もあれば、発見もある――以上、訳者のあとがきより。
作者のトランターはこの「運命の石贋物説」の支持者としてよく知られている歴史小説家なのだそうだ。ただし本書は歴史小説というより、運命の石探索に乗り出した青年ドラモンドと、彼に共感したスコットランド魂を持つにわか作りの仲間による冒険物語、という色合いが強い。「仲間」とはマグレガー(山賊という別名を持つ荒くれ男)、マクフェール兄弟(俗にディンカーと呼ばれる流浪の民)、ジェームズ・グレーアム(キンケイド農場の主)、ジーン(ジェームズの娘。才知と行動力がある上に鄙にはまれな美人)である。そして、中心人物のドラモンドが実はパトリック・キンケイドという名の准男爵で、昔キンケイド農場一帯を所有していた貴族の後継者、という設定であれば、当然ロマンス小説の色合いも帯びてくる。
「運命の石」はあっさり見つかるが、さてそれをイングランドから乗り込んできたオクスフォード大学歴史研究会の連中からどう安全に隠すか、というのが本書の核心部分。イングランドの頭脳を象徴するオクスフォード対、郷土愛に燃えるスコットランドという構図であるが、オクスフォード側は間抜けな学生カップルが登場するだけ。上記の人物群とスコットランドの深遠な自然が主役である。(2014.8.8読了)
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by nishinayuu | 2014-11-19 10:46 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2014-11-22 18:39 x
ある特定の人々の間でだけ価値が認められるもの、歴史的な遺物や骨董品の類。この石も歴史的な文脈の中で輝くものなのでしょう。その歴史の衣装を剥ぎ取れば、本物も贋物もただの石にしかすぎないわけだけれども。ドタバタとおもしろそうですね。
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