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『エディスト物語』(パジェット・パウエル著、宮脇孝雄訳、早川書房)


c0077412_10292522.png『Edisto』(Padgett Powell, 1983)
アメリカ南部13州の一つであるサウス・カロライナは、北軍の南部焦土作戦による甚大な被害のせいで、人々の間には今でも北部に対する複雑な感情が残っているという。この物語はそんなサウス・カロライナ州の大西洋岸にあるたくさんの島の一つ、エディスト島を舞台に繰り広げられる。語り手は12歳のシモンズ。綴りはSimmonsではなくmが一つしかないSimonsであり、サイモンズではなくシモンズと読んで欲しい、と語り手は言う。赤毛のアンと同じく自分の名前に特別な思い入れのある語り手は、他の人の名前に関してもいろいろこだわりを見せる。
例えば母親をたいていは「博士」と表現するが、父親との関係を語るときは「ペネロペイア」であり、その母親が黒人たちからは「侯爵夫人」と呼ばれていることも知っている。母親は非常に頭のいい大学教師であり、父親とは別居中で何人もの求婚者を侍らせている、というわけで「博士」であり「ペネロペイア」なのだ。そして黒人たちは、自分たちにはよくわからない突飛な白人女性を「侯爵夫人」ということにして受け入れているのだ。
両親が別居しているのはシモンズの教育について意見が対立しているからだ。弁護士の父親はシモンズをリトル・リーグの名ショートにするのが夢だが、私立の進学校に通わせて将来は実務系のエリートにしたいとも考えている。母親はシモンズを作家にしたいと考えていて、取材のため、ということでシモンズは公立校に通うことになった。さらに母親はシモンズに、かつて偉大な作家がそうしたように、朝の3時に起きて課題作文を書くように、と言い付ける。その課題作文がすなわち本書なのだ。
この物語にはもう一人、重要な人物が登場する。シモンズが12歳の誕生日を迎えた日、黒人のメイド、シーニーの前に現れた「令状送達吏」である。シーニーへの令状を持ってきたのだが、シーニーは異常におびえて逃げ出し、行方をくらましてしまう。シーニーの後釜として居着くことになったこの「令状送達吏」は、この日からシモンズの毎日になくてはならない人物となる。素姓も名前も語らないこの男にシモンズはトーラス(牡牛)という名前を付ける。

語り口になれるまで、土地の雰囲気や人物の関係がわかるまでに時間がかかり、決して読みやすい作品ではないが、語り手が周りの世界を徐々に理解して行く過程が克明に描かれており、納得のいく成長物語である。(2014.7.27読了)
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by nishinayuu | 2014-11-07 10:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2014-11-08 14:18 x
アメリカの南部を舞台にしていると思うと、それだけでわくわくします。ミステリアスな人物も登場してとてもおもしろそうですね。
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