『よみがえる昭和天皇』(辺見じゅん・保阪正康-対談、文春文庫)


c0077412_915727.jpg読書会「かんあおい」2014年6月の課題図書。
副題に「御製で読み解く87年」とある。「御製」ということばは『万葉集』の中と「歌会始」に関する報道などでしかお目にかからないが、昭和天皇の御製は1万首以上あって、公表されているのはそのうち約900首だという。
昭和史の研究者である保坂は、「昭和天皇の御製には、側近の回想録、勅語、記者会見の質疑応答などからは読み取れない、天皇の本当の気持ちが表れている」という。また歌人でありノンフィクション作家である辺見は、「波乱と激動の昭和という時代の、それぞれの時期における天皇の発言集や侍従や側近の記録からは、昭和天皇の実体がよくわからなかったが、お歌には天皇の私的な心、抑制された心情が豊かに表れていて、そのまま昭和という時代の、光と影まで映し出しているのではないかと思うようになった」と言う。そんな二人が、摂政時代から崩御までの87年間の「御製」を辿りながら、昭和天皇のそのときどきの思いを解き明かしつつ、昭和という時代を振り返ったのが本書である。
昭和天皇その人についての印象はさておいて(さておく理由もさておいて)、興味深かったのは御製のほとんどが見事な万葉調の歌であること。たとえば、太平洋戦争後に各地を巡幸した折に詠まれた数々の歌は、まさしく『万葉集』に見られる「国見の歌」なのである。また、古来の風雅な言葉が随所に使われていて、まるで万葉の歌を読んでいるかのような気分になる。例えば次のような歌

たへかぬる暑さなれども稲の穂の育ちを見ればうれしくもあるか

この歌について辺見は「~もあるか、という詠嘆は万葉歌人に好まれた言葉遣いで、現代歌人にはなかなか容易には使えません。私が保坂さんとお会いしてうれしいなあ、という歌を読むのに、うれしくもあるか、と軽々には言えないのです」と言っている。天皇だからこそ使いこなせる言葉、天皇だからこそ可能な歌いぶりというものがある、ということだろう。(2014.6.15読了)
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by nishinayuu | 2014-09-16 09:02 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2014-09-20 03:14 x
最近「昭和天皇実録」が編纂され、小学校時代の作文や子どものときの写真も紹介されていました。作文も素直な感じだし、写真もかわいいけれど、大人になってからの写真とはずいぶん印象が違いますね。
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