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『ヴィルトゥオーゾ』(マルグリート・デ・モーア著、伊藤はに子訳、筑摩書房)


c0077412_96693.jpg『De Virtuoos』(Margriet de Moor, 1993)
本書はオランダの作家デ・モーアの第4作目で、18世紀前半のナポリを舞台に、天使と悪魔を併せ持つユニークな存在であるカストラートを、語り手の女性の感覚を通して描いた、妖しくもきらびやかな作品である。

物語は、「ある日のこと、私たちの村から一人の少年が消えた」という衝撃的な文で始まる。村の名はクローチェ・デ・カルミネ。ヴェスヴィオス火山の麓にある美しい村である。少年の名はガスパーロ・コンティ。村のサンタ・モニカ教会の聖歌隊で第一ソプラノを歌う11歳の少年だった。
10歳の少女だった語り手のカルロッタはその日、聖歌隊にガスパーロの姿がなく、歌にも何かがかけていることを感じて、悲しみと恐怖に襲われる。そして乳母に「ガスパーロはどこへ行ったの?」と尋ねる。はじめは答えを渋っていた乳母のファウスティーナも、真剣な目で見つめるカルロッタに声を潜めて言う。「ノルチアにいると聞きましたよ」。ノルチアの名はずっと後になっても秘密めいて胸騒ぎを起こさせるリフレインのようにカルロッタの胸の中で繰り返し響く。
カルロッタがノルチアの意味を知ったのはずっと後のことだった。ノルチアに連れて行かれた少年たちは、非常に巧妙な外科手術を施され、その後何年も厳しい鍛錬を受けた後、人々の心を揺さぶり陶酔させる清澄な声の歌い手「カストラート」として生きていくことになるのだ。

後半に「インテルメッツォ」という章が挿入されている。ファウスティーナが語るファウスティーナの物語で、他の章の主要人物たち――カルロッタ、義理の姉のアンジェリカ、二人の父親であるパオロ・カエターニ男爵、カルロッタの夫や恋人、そして少年時代も長じてからもカルロッタの心をとらえて放さないガスパーロ――にまつわる様々なことがらがファウスティーナの生涯を彩る背景のように綴られていく。複雑な人物関係、入り組んだ時の流れなどがすっきりまとめられた、全体の要約のような章である。(2014.5.4読了)
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by nishinayuu | 2014-08-11 09:06 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2014-08-13 01:48 x
さぞかし美しい歌声なのでしょうね。
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