『薪能』(立原正秋著、筑摩現代文学大系81)


c0077412_13302489.jpg作者の代表作の一つといわれるこの作品は、新潮編集部に投稿され、急遽採用されたもので、1964年5月号に掲載された。「投稿原稿をいきなり採用するのは編集部としては放れ業だったが、当時38歳だった立原はいくつかの文芸誌に相当数の小説を発表していて知名度もあったし、編集部内の評価も、新人とは思えぬ巧い作品ということで一決した」と当時の担当者だった坂本忠雄は回想している(『立原正秋追悼』創林社)。
鎌倉を舞台に繰り広げられ、9月22日の鎌倉薪能でクライマックスを迎えるこの物語は、従兄弟同士の恋をあわれに美しく描き出している。ふたりの祖父は壬生家の主(いかにも、という感じの名前ですね)。屋敷に能楽堂を持ち、自らも相当な舞手であったこの人物は、戦死した長男のひとり娘である昌子と、アメリカ兵とのけんかで命を落とした次男の一人息子である俊太郎を引き取って育てる。子ども時代から成人するまでの12年間を姉と弟のように過ごした二人が、数年の時を経て再会し……、となるとその後の成り行きは想像できるが、背景に能の世界があるのであくまでも妖艶な美しさを保って展開していくところがこの作品の読みどころである。

なお、この作品は同年上半期の芥川賞候補となったが、新人としては巧すぎ作りすぎ、という意見が過半数を占めて落選したという。因みにこのときの受賞作品は柴田翔の『されどわれらが日々』である。(2014.3.23読了)
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by nishinayuu | 2014-06-20 13:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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