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『승경』(구효서)


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『勝景』(具孝書)
韓国語講座(週1回、各1時間半)の購読テキスト。2013年11月15日からほぼ2ヶ月かけて精読した。原本は『文学思想』(2006.8)。



「蕎麦の実を、と言ったまま彼女は口を閉ざした。午後2時で、外は五月の陽光に溢れていたが、部屋の中はほの暗く、ひんやりしていた」という文で始まる。語り手は30代の韓国人作家で、「彼女」というのは57歳の未亡人。作家は長崎を背景にした作品を書くために、長崎に近くて滞在費は安くてすむタテノ村にしばらく滞在していた。作品が無事に仕上がり、帰国するばかりになった作家は、以前から村長がいやに熱心に勧める「彼女」への訪問をしてみるか、と思い立ってやってきたのだった。こうして作家は、たぐいまれな美貌と妖艶な所作の持ち主で、不思議な手振りを交えて語るこの未亡人の口から、彼女の半生とこの村の謂われを知ることになる。若くしてこの村に流れてきた彼女は、ここでひとりの誠実で勤勉な男性と出会った。この出会いが彼女に生きる力を与えたばかりでなく、村にも奇跡をもたらしたのだった。

韓国流健康食品の材料が韓国語と日本語発音のハングル表記でずらずらと並んでいるところや、彼女が作家へのお土産を、冷凍食品なのでソウルの取引先に注文して配達させます、と言う場面など,具体的で現実的な描写がある一方で、次のような荒唐無稽なエピソードもある。
村にあるたった一つの山は、長崎に原爆が落ちたとき、爆風でてっぺんが吹き飛んだ。それで村の重心が狂ってしまった。村のバランスを取り戻すために山とは反対側の村はずれに大きな池を掘ろう、と夫が言い出した。健康食品の製造販売で貯めた私財を投じ、たっぷり日当を払って村の人々も巻き込んだ。やがて大きな池ができあがって水を満たすと、村はバランスを取り戻した。

長崎の近郊にあって、村人たちが一体となって自然のバランスを取り戻した村。日本人と韓国人が互いを尊重しつつ平和に暮らす村。現代に現出した美しい民話の世界である。(2014.1読了)
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by nishinayuu | 2014-04-17 11:54 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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