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『ネザーランド』(ジョセフ・オニール著、古屋美登里訳、早川書房)


c0077412_1038397.jpg『Netherland』(Joseph O’Neill, 2008)
本書はお正月休みのあいだに読もうと図書館で借りた2冊中の1冊。もう1冊は『従順な妻』で、偶然2冊とも異邦人の目で見たアメリカが描かれた物語だった。土地も主人公の境遇も全く違うが、運転免許証取得にまつわるエピソード、配偶者がアメリカから去った後も主人公はアメリカに残っていた点など、共通項も多い。

語り手の「ぼく」はオランダ人のハンス・ファン・デン・ブルーク。かつてニューヨークでばりばりの証券アナリストとして活躍し、現在(2006年)はロンドンで妻と息子と一緒に暮らしている。因みに妻のレイチェルについて語り手は「一度は袂を分かって別の道を進んでいったが、その後で心から好きになった相手が、運のいいことに、すでに自分が結婚していた伴侶だった」と述べている。そんな語り手のところにある日、ニューヨーク・タイムズ紙の記者から電話がかかってくる。チャック・ラムキッスーン“らしき残骸”がゴワナス運河で発見されたという。チャック・ラムキッスーンという名前とその尋常でない最期を聞かされた語り手の胸に、ニューヨーク時代の思い出がわき上がる。妻との不和のせいでわびしく惨めだったニューヨークでの生活、そこに光を与えてくれたチャックとの出会い、チャックを通して知り合った有色人種ばかりのクリケット仲間との交流、そして2001年9月11日を境に変わってしまったアメリカという国。さらに語り手の記憶は、生まれつき陽気な資質を持ち合わせていなかった母と暮らした子供時代、ロンドンやハーグで過ごした日々へとさかのぼる。

作中の随所に印象的な描写がある。たとえば

マンハッタンの翳った部分を歩いていると、ときどきマグリットの絵に入り込んだ気分になる。通りが夜で空が日中の絵だ。2003年1月、ぼくがニューヨーク自動車組合のある建物からよろよろと外に出ると、ヘラルド・スクエアはそんなふたつの世界がある夢のような夕暮れだった。

あるいはまた

最後にアメリカで過ごした八月には、次々と雷雨が襲ってきた。今でもその様子がありありと目に浮かぶ。いきなりあたりが深海のような緑色に変わり、サイコロのような霰がアスファルトの上で跳ね、雨の川がチェルシー地区を縦横に流れ、空を覆う目映い光が何度も部屋の窓から見えた。

書き出すときりがないのでやめるが、翻訳でもこれだけ味わい深いのだから、原文はさぞかし、と想像している。(2014.1.10読了)
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by nishinayuu | 2014-04-05 10:38 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2014-04-06 01:40 x
9.11を機に変わったアメリカとは? 観察者がオランダ人というのがいいですね。中立的に観察しそうで。
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