耳ラッパ――幻の聖杯物語』(レオノーラ・キャリントン著、野中雅代訳、工作舎)


c0077412_13432960.jpg『The Hearing Trumpet』(Leonora Carrington)
「耳ラッパ」というのは、大きく曲がったバッファローの角の形をした音声拡大器、つまり補聴器である。語り手は92歳のマリアン・レザビー。故国のイギリスを離れて、メキシコに50年近くも住みついている。15年ほど前から息子の家族と同居し、家族の邪魔にならないようにせいぜい気をつけながら、自分なりの楽しみを見つけて暮らしている。耳はよく聞こえないけれども日常生活には何の支障もなかった。そんなマリアンにある日、親友のカルメラが「耳ラッパ」をプレゼントしてくれた。「これであなたの人生は変わるわ」と言って。果たして、マリアンの人生はがらりと変わることになる。息子一家がマリアンを老人施設に入れる相談をしていたのだ。
こうしてマリアンは中世の城のような雰囲気の老人施設で集団生活を送ることになる。そこでマリアンが出会ったのは施設長のガンビット博士とガンビット夫人、そして以下の8人の老婆たち。
ヴェロニカ・アダムズ――最年長の99歳。昔は画家で、目が見えない今も水彩画を描き続けている。
クリスタベル・バーンズ――有名な化学者を父に持つ、もの静かな黒人女性。
ヒョルヒーナ・サイクス――長身で服装は粋で、言動は大胆不敵。
ナターチャ・ゴンザレス――インディオの血が混じる。時に幻視の発作に襲われる。
クロード・ラ・シュシュレル――フランス人で侯爵夫人。
モード・ウイルキンズ――いちばん女らしい「老婆」だったが実は…。
ヴェラ・ヴァン・トホト――威厳がある。太りすぎで顔が両肩幅ほどあり、顔の中央に狡猾そうな目がある。
アナ・ヴェルツ――常に何かをしゃべっているが、耳を傾けるものは誰もいない。
物語は、かねがねカルメラと、7歳以上70歳以下の人間は信用できない、と語り合っていたマリアンの、70歳以上100歳未満の(70歳はどっちなのか、と突っ込みたくなりますが)したたかな老婆たちとの奇妙で可笑しい日常生活を描き、やがて奇想天外な冒険物語へと展開していく。

著者は1917年イギリスに生まれ、パリで出会ったエルンストに「風の花嫁」とたたえられた女性。後にメキシコに渡って画家、彫刻家、作家としても活躍している。本書は著者の線画を挿絵として取り入れ、表紙には著者の絵のイメージ画をあしらったしゃれた作りの一冊となっている。(2013.12.8読了)
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by nishinayuu | 2014-03-04 13:44 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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