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『真昼の女』(ユリア・フランク著、浅井昌子訳、河出書房新社)


c0077412_21285397.jpg『Die Mittagsfrau』(Julia Franck, 2007)
「真昼の女」とはスラブ民族の言い伝えに出てくる幽霊で、暑い日の真昼、昼休みもとらずに畑で働く人の前に現れ、呪いをかけるという。この「真昼の女」から身を守る唯一の方法は、1時間の間畑仕事や亜麻の加工について話してやることだ(本文中の注より)。

プロローグの舞台は第2次世界大戦直後のシュテッティン。もとドイツ領で、この時はソ連軍に占領されていた町だ。ドイツ人に退去命令が出て、8歳の少年ペーターは母親と一緒に西へ向かうことになった。やっとたどり着いた駅で列車を待っているとき、母親は「すぐに戻るから待っていて」と言ってペーターをベンチに残したまま、戻ってこなかった。母親の名はアリース。病院の看護師だった。
本編の主人公はヘレーネ。優しい父と美しいユダヤ人の母、年の離れた姉のマルタ、という四人家族だったが、父は第1次大戦で受けた傷がもとで亡くなる。精神に異常をきたしている母親に娘として認められないヘレーネは、姉のマルタに憧れと親密感を抱いて育つ。やがて姉妹は親戚の女性を頼ってベルリンに旅立つ。ベルリンには姉の友人(レズビアン関係の相手)も待っていて、姉妹の力になってくれる。看護師として働きはじめたヘレーネにはカールという恋人もできて、幸せな将来が見えてきた矢先、カールは事故で死んでしまう。気がつくと姉の麻薬依存もどんどん深みに入り込んでいた。茫然自失しているヘレーネの前に、熱烈な讃美者が現れる。ヴイルヘルムはユダヤ人ながら金髪のヘレーネのために「純血証明書」を捏造し、身分証明書を偽造することまでして結婚を申し込む。(本編も終わりに近づいたこの時点でやっとアリースとヘレーネの関係が明らかになるわけです)。それからまたいろいろあって…。
エピローグではペーターが17歳の誕生日を迎えている。父親の兄の農場にたどり着いてそこで大きくなったペーターは、いきなり訪ねてきた母親の姿を家畜小屋に身を隠してこっそり見る。47歳のはずなのに、まるで少女のようだった。見覚えのある金髪と美しい顔。しかしペーターは母に会うつもりはなかった。母もペーターを探すことをせずにそのまま去って行く。

戦時の混乱の中でやみくもに働くだけで自分を語ることをしない、あるいはできないアリース=ヘレーネは、「真昼の女」の呪いに絡め取られた女だったのだ。(2013.11.28読了)
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by nishinayuu | 2014-02-24 21:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2014-02-25 20:50 x
激動の時代の中で、いろいろな人生があったんですね。ありそうでなさそうな物語。子供を捨てるのはありそう、再会するのはなさそう。
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