『湿地』(アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由美子訳、東京創元社)


c0077412_10135020.jpg『MÝRIN』(Arnaldeur Indridason, 2000)
物語の舞台は例年にない長雨に見舞われている2001年10月のレイキャヴィク。ノルデュルミリ(北の湿地)と呼ばれる住宅街にある半地下のアパートで、老人の死体が発見され、ベテラン捜査官のエーレンデュルが駆けつけて捜査を開始する。被害者に招き入れられた人物が突発的に被害者を殺して逃走したように見える現場の状況から、事件は一見「典型的アイスランドの殺人(汚くて無意味で、足跡や証拠を隠すこともしない不器用な殺人)」のように見えた。しかし、死体の上に置かれていた「おれはあいつだ」という不可解なメッセージを解明しようと粘り強い捜査を続けるうちに、被害者ホルベルクの忌まわしい人物像とそれに巻き込まれた痛ましい人びとの姿が徐々に立ち現れてくる。
エーレンデュルが頭を整理するために娘に語る、という形で捜査の経緯と現状が羅列された箇所を引用しておく。

死体の発見、アパートの臭い、意味不明の走り書き、引き出しの奥から発見された写真、パソコンに満載されたポルノ、墓石に刻まれた言葉、コルブルン(故人)と姉のエーリン、ウィドル(コルブルンの娘)と謎の死因、いつも見る夢、刑務所のエットリデ、グレータルの失踪、マリオン・ブリーム、もう一つのレイプの可能性、エーリンの家の窓の外に立った男、もしかするとホルベルクの息子かも知れない。

暗くてじめじめしていて忌まわしい物語であるが、エーレンデュルという人物の魅力が救いとなっている。文体もミステリーとしては破格的に読みやすい。これは解説者(川出正樹)によると「作者がサガの伝統に則り、くだくだしく細部を描写することなく簡潔な文章を連ねて、テンポよく物語を展開しているため」だという。納得。
またこの作品は2006年に映画化されていて、アイスランドの荒涼とした自然美を背景に、枝葉を切り落とし、大胆にアレンジしつつも原作の魅力を十二分に引き出した見応えのある作品になっているという。しかも、東欧最大級のフィルム・フェスティバルであるチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを受賞しているという。なるほど、なるほど。それでもやはりこの作品は映像では見たくない。(2013.10.27読了)
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by nishinayuu | 2014-01-20 10:14 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by マリーゴールド at 2014-01-22 00:54 x
アイスランドのミステリーというか小説自体を目にする機会がないので、興味が湧きます。
Commented by nishinayuu at 2014-01-22 14:22
マリーゴールドさん、こまめにコメントをしてくださってありがとうございます。寒い季節には寒い国の本を、暑い季節には暑い国の本を読むと、より深く味わえるような気がします。お読みになるなら今のうちにどうぞ。
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