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『紅梅』(津村節子著、文藝春秋)


c0077412_9325743.jpg読書会「かんあおい」2013年10月の課題図書。本作品の初出は2011年「文学界」5月号。
作家である夫が重篤な病を発症した2005年の1月から最期を迎えた2006年夏までを、やはり作家である妻の立場から綴ったもの。吉村昭の闘病と津村節子の介護の日々を基にした「作品」であり、登場人物の名前も変えてあるが、作家活動に関する事項などはそのまま書かれていると思われることから、「記録」に近いものといえよう。ふたりともに創作活動に従事する夫婦というのはさほど珍しくはないかもしれないが、そういう場合は互いに相手を尊重して相手の領域には踏み込まないようにしないと長続きしないだろう。そんな夫婦の微妙な関係が、夫の辛辣でいてユーモアのある言葉と、妻の恨めしさを潜めた優しさから感じ取れる作品である。ただし夫の最後の場面を綴った次の部分には、やりきれなさの頂点に達した妻の気持ちが現れているようで、印象に残る。
夫は息子の首に手を回して何か言った。(中略)夫は息子に何を言い残したのだろう。育子でなくなぜ息子なのだろう。育子が夫の背中をさすっているときに、残る力をしぼって身体を半回転させたのは育子を拒否したのだ、と育子は思う。情の薄い妻に絶望して死んだのだ。あれほど苦しんだ病気から解放された夫は、穏やかな顔で眠っていた。
(2013.9.29読了)
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by nishinayuu | 2013-12-18 09:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-12-19 10:47 x
この作品はまだ読んでいないが、若き日の二人のことを綴った本から夫の心情を推し測ると、妻に常に面倒のかけ続けていることへの負い目から、妻から離れたいという態度になったのではないだろうか。
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