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『負債と報い』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子訳、岩波書店)


c0077412_20142881.jpg『Payback』(Margaret Atwood, 2008)
副題にDebt and Shadow Side of Wealth(負債と豊かさの影)とある。著者は『昏き目の暗殺者』『ペネロピアド』『オリクスとクレイグ』『またの名をグレイス』などで知られるカナダを代表する作家であり、詩人、批評家、社会運動家としても活動している。
本書は「聴衆に向かって語りかける口調で執筆した」と著者が言うように、歴史や経済活動などに関する複雑な事柄を、世に知られた数々の文学作品を引用しつつ、適宜皮肉やユーモアも交えて平易な言葉で解き明かしている。長い人生を控えている若い人たちにぜひ読んでもらいたい一冊だ。
各章のタイトルと概要は以下の通り。
第1章「古代の貸借均衡」――貸借のシステムにおける公平の原理と公平さを決める装置である天秤について、ギリシャ・ローマ神話などの古典やキングズレーの『水の子』などをもとに検討する。
第2章「負債と罪」――債務者と債権者の道義的特徴について検討する。イエスの話したセム語系のアラム語では「負債」と「罪」は同じ言葉だった、したがって主の祈りの一節は「わたしたちの負債/罪をお許しください」あるいは「わたしたちの罪深い負債をお許しください」と訳すことも可能だという指摘や、聖ニコラスと質屋の関係、人間質草である借金奴隷、さらには魂の質入れなどの話から、負債と文書記録との関連へと展開していく。
第3章「筋書きとしての負債」――負債というものには「自分の人生に何も起こらないよりは、なにか痛い目に会うほうがまし」という面があると述べ、そうした筋書きとしての負債が小説の中で大いに物を言ったのが19世紀だったと、『クリスマス・キャロル』『嵐が丘』『虚栄の市』などをとり上げて論証している。さらに粉屋につきまとうマイナス・イメージのよって来たるところについての興味深い解説もある。
第4章「影なる部分」――負債の返済ができないとしたら、あるいは返済しようとしなければ、さらにはお金で返済できない負債だったらどうなるのだろうか、という問題が取り上げられている。重税や債務への怨嗟が生んだ反乱や革命、ホロコーストや戦争などの形で現れた債権者への復讐の一方に、虐げられたものが復讐をしない「許し」というものがあることを事例を挙げながら説く。
第5章「清算」――『クリスマス・キャロル』のスクルージが現代に登場し、彼の許を訪れる精霊たちに導かれて過去と未来を旅する。過去の地球の精霊はスクルージに人間たちの過去の行状を見せて、今それが気象変化などの形を取って負債としてのしかかっていることを教える。未来の精霊のひとりは環境破壊を放置した結果としてのデストピアの世界を、もうひとりは環境と均衡を保つことに成功した世界を見せる。どちらの道を選ぶか、今人類は待ったなしの決断の時にある、と著者は警告しているのだ。(2013.10.7読了)
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by nishinayuu | 2013-12-15 20:14 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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