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『厳重に監視された列車』(ボフミル・フラバル著、飯島周訳、松籟社)


c0077412_22444044.jpg『Ostře sledované vlaky』(Bohumil Hrabal)
著者は20世紀後半のチェコ文学を代表する作家のひとり。青年期をナチスドイツの圧制下で送り、その後の社会主義ソ連の支配という困難な時代も国内に留まって作品を書き続けた。訳者の解説によると、ビロード革命の前の年にある会合で、国外に亡命したミラン・クンデラについて尋ねられた著者は「彼のチェコ語は現在のチェコ語ではなく、ずっと国内にいるわたしのチェコ語とは異なってしまった」という趣旨のことを語ったという。亡命しなかった人の亡命した人への複雑な思いが伝わってくるようだ。

物語の舞台は、ナチスドイツの保護占領下にあった1945年のとある鉄道駅。
(列車が)西から東へ通過する線は1番線で、東から西へ通過する別の線は2番線であり、それから後、1番線から進行方向の右手のすべての線は奇数番号、3、5,7などで、通過する2番線から進行方向の右の線はすべて偶数番号、4、6,8,10などである。(中略)ぼくらの小さな駅のプラットフォームに立つ素人の立場からは、1番線は5番線で、2番線は3番線で、3番線は1番線で、4番線は2番線なのだ……
となっていて、何がなんだかわからないが(誰か教えて!)とにかく線路がかなりたくさんある駅のようだ。駅の職員は駅長さん、操車員のフビチカさん、電信係の若い女性・ズデニチカさん、そして物語の語り手である操車見習いのミロシュ・フルマ。ミロシュは自殺を図って手首を切ったのだが、すぐに見つかって助けられ、傷も癒えたため、3ヶ月ぶりに復職したところだ。ミロシュがいない間に、フビチカさんが駅の公印をズデニチカさんのお尻にぺたぺた押す、という事件があったため、交通司令部から役人が取り調べに来るが、役人たちも駅を通る列車の乗務員たちも、どうやらフビチカさんを羨望しているようだった。もちろんミロシュはフビチカさんが怪しからぬ振る舞いをしようと別に気にしない。操車員としてのフビチカさんを尊敬しているからだ。
列車はひっきりなしに駅を通過する。ドイツ兵を乗せて前線へ向かう列車、前線から負傷者や病人を乗せてくる列車、豚や牛がぎゅうぎゅう詰めにされて息絶え絶えになっている列車、連合軍に爆撃されたドレスデンからの避難民を乗せてきた列車……。操車員はそれらの列車の運行表をにらみながら線路や信号を操作するのだ。
そのベテラン操車員のフビチカさんがミロシュに囁く。「ミロシュ、明日は俺たちは夜勤で、また一緒だ……俺たちの駅を弾薬を積んだ貨物列車が通過する。俺たちの駅を午前2時に通る予定だ。そして、俺たちの駅と隣の駅との間に丘は一つもないし、建物も一軒もない……ということは、列車全体を吹っ飛ばしてもそのつけは宇宙が払ってくれる、というわけだ……」。こうして二人に厳重に監視された軍用輸送列車は刻一刻と駅に近づいてくる。(2013.10.1読了)
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by nishinayuu | 2013-12-12 22:44 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-12-15 16:58 x
フビチカさんとミロシュさんは抵抗運動の地下工作員のようですね。おもしろそうですね。
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