『ケイティの夏』(エリザベス・バーグ著、島田絵海訳、ベネッセ)


c0077412_15231244.jpg『Durable Goods』(Elizabeth Gerg, 1993)
本作品はこの作家のデビュー作で、表紙裏の紹介文には「人生に多くのものをもたらす10代のきらめくような一日一日。成長の悲しみ、変わっていくことの傷み、人と人を結ぶ繊細な震えを瑞々しい筆致で捉えた、明るく心温まるグローイングアップ・ストーリー」とある。
12歳のケイティはテキサスの陸軍駐屯地に、陸軍大佐の父、18歳の姉ダイアンと暮らしている。母はテキサスに引っ越してくる前に病死してもういない。だから父がダイアンやケイティに暴力をふるっても、止めてくれる人はいない。生きていた頃の母が父の暴力を止めてくれたわけではないが、母が手をさしのべ、やさしく抱き寄せてくれるという感触は、ケイティの心に届いていた。母は父を愛していたが、恐れてもいたのではないか、とケイティは思う。父は母にだけは細やかな愛情を注いでいて、母をぶったことなど一度もなかったのだが。
家は煉瓦造りの建物で、長屋のようにつながって6世帯が住んでいる。右隣に住む14歳のシェリレーヌはケイティの親友であり、思春期にさしかかったケイティにいろいろアドヴァイスをしてくれる先輩でもある。体がどう変化するか、男の子にもてるにはどうしたらいいか、などをケイティはシェリレーヌから教えてもらっている。ダイアンはダイアンで、地下室でボーイフレンドのディッキーと遊んだり、ときどき夜中に家を抜け出したりしている。二人とも父の前では極力おとなしくし、互いにそれとなくかばい合っている。父はちょっとしたことですぐに爆発するからだ。
ある日父が、また転勤だ、3ヶ月したらミズーリに引っ越す、と告げる。高校卒業まではあと8ヶ月なのでひとりでここに残りたい、というダイアンに、父は耳を貸そうとしない。ついにダイアンは家を出る決心をする。ディッキーと一緒にメキシコに行って働く、という計画を打ち明けたあとダイアンは、一緒に行く?とケイティに尋ねる。そこでケイティは何も知らずに眠っている父を残して、迎えに来たディッキーのトラックにダイアンと一緒に乗り込んでメキシコに向かうのだった。

本書は、娘たちを暴力で抑えようとする父親、軌道を外れていきそうな娘たち、というありきたりのアメリカ版思春期小説のように見えて、実は登場人物たちの微妙な心の動きをみごとに捉えた、決してありきたりではない作品である。ケイティの父親は、愛する妻を亡くして途方に暮れている寂しい男、自分の思いを言葉や態度で表現することができない不器用な男なのだ。12歳のケイティがそんな父親を理解できるまでに成長していき、父親もまた自分が変わらなければならないことに気づいていく過程は感動的である。(2013.9.15読了)
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by nishinayuu | 2013-11-27 15:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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