『東学農民戦争と日本―もう一つの日清戦争』(中塚明・井上勝生・朴孟洙著、高文研)


c0077412_9145017.jpg本書は1995年7月に北海道大学文学部の研究室で髑髏が見つかったことをきっかけに、日韓共同の歴史事実の調査・研究が進められ、さらには歴史を学ぶ市民運動が生まれることになった過程を綴ったものである。190ページという小さな本であるが、盛り込まれた内容は深くて重い。できれば参考書として手許に置いておきたい本である。

北海道大学で見つかった髑髏の一つには「韓国東学党首魁ノ首級ナリト云フ 佐藤政次郎氏ヨリ」と墨書され、次のような書き付けが添えられていたという。
髑髏(明治三十九年九月二十日 珍島に於いて)/右は明治二十七年韓国東学党蜂起するあり、全羅南道珍島は彼れが最も猖獗を極めたる所なりしが、これが平定に帰するに際し、その首唱者数百名を殺し、死屍道に横たはるに至り、首魁者はこれを梟(さらし首)にせるが、右はそのひとつなりしが、該島視察に際し採集せるものなり。

本書はまず、日清戦争が東学信徒をはじめとする朝鮮民衆と日本軍との戦いだったことを明らかにする。日本軍ははじめ、「除暴救民 輔国安民 斥和洋」のスローガンを掲げて蜂起した東学農民軍を鎮圧するという名目で朝鮮に出兵した。ところがこれを日本による侵略の危機と見た東学農民軍が朝鮮政府と和議を結んだため、出兵の根拠を失った日本軍は急遽、王宮を占領して王を虜にする。前に朝鮮政府が「朝鮮は自主の国だ」と言ったのを言質にして朝鮮政府を脅し、朝鮮政府が清国軍の撃退を日本に依頼した、という口実で清国軍の撃退、すなわち清国との開戦に踏み出したのだ。
次に本書は東学とはなにか、東学農民戦争とはなんだったのかを解き明かしていく。日本には東学農民について「低俗な民間の迷信的な信仰に、さらに排外主義も加わった得体の知れないもの」という見方が根強くある。それは明治以後、「征韓論」とともに広められた「朝鮮落伍論、・朝鮮他律論」という偏見がもたらしたものであり、新渡戸稲造も司馬遼太郎もこうした偏見に荷担している、と著者はいう。実際の東学は「朝鮮王朝の末期、社会のさまざまな困難を民衆のレベルから改革し、迫り来る外国の圧迫から民族的な利益を守ろうという願い」を反映した思想であり、「万民平等」と「やむを得ずして戦うとしても、命を傷つけぬことを尊しとする」と謳う思想なのだ。この東学農民軍が日本軍の王宮占領を機に再び蜂起したとき、日本軍は宣戦布告もしないまま「討伐」に乗りだして殺戮した。その数3万~5万。さらに、地の利を得て潜伏・攻撃を繰り返す東学農民軍を、南の珍島まで追い詰めて殲滅した。「生け捕りは大いに拷問して焼殺、民家ことごとく焼き討ち」という、東学の思想とは対極にある残忍さだった。
日本は内外からの非難を恐れて朝鮮出兵の経緯を事実とは異なる形に書き換え、東学農民軍の闘いを愚昧な農民の反乱として矮小化した。三人の著者は研究者として、そうした「歴史の偽造」を正し、東学に対する評価を正すために互いに学び合うとともに、東学の故知をたどるツアーを組織するなど、市民レベルの連帯を深める努力を続けている。(2013.9.9読了)
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by nishinayuu | 2013-11-18 09:15 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-11-21 15:52 x
読んだ後にいくつか疑問が残った。東学党は排外主義的スローンガン(斥倭)と体制改革的な要求で朝鮮政府と和議を結んだ。しかし日清戦争で日本が勝利した後になぜ第二次の蜂起を行ったかということである。日本がクーデターで樹立した改革派政府がすべての改革を実施している時にである。今日でも排外主義は韓国で反日という形ですさまじい影響力を持っている。東学党の乱を潰した日本軍の頭には幕末の薩英戦争、長州の4か国戦争で排外主義が敗北したことが、開国改革へ進んだと言う記憶があったのだと推測する。金完燮(ワンソプ)の「親日派のための弁明」の中では残った東学党の勢力は排外主義(斥倭)を捨て、知識人とも組み改革の道へ進むことを決断し、一進会を作ったとある。
第二次の蜂起で壊滅した人数については韓国の情報をうのみにするのは危ない。第一次資料を当るべきだと思う。3.1事件の死亡者が韓国では1万人以上とかさわいでいるが、先日出た朝鮮日報の記事でも640人程度と確認している。慰安婦も10万とか20万とか騒いでいるが、実際には最小で9千、最大で4万5千人規模だと言われている。数字についての再調査を望みたい。
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