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『部屋の向こうまでの長い旅』(ティボール・フィッシャー著、池田真紀子訳、ヴィレッジブックス)


『部屋の向こうまでの長い旅』(ティボール・フィッシャー著、池田真紀子訳、ヴィレッジブックス)_c0077412_167111.jpg『Voyage to the End of the Room』(Tibor Fischer,2003)
物語の語り手はオーシャンという名の自称「リッチな」女性。ロンドンの一郭にある広いフラットに独りで住み、コンピューターでグラフィックデザインをしている。ある時、外出先で両足が鉛のように重くなり、まぶたも落ちてきて気絶しそうになったので、這うようにしてフラットに戻った。30分ほどの外出で精根尽き果てていて、外出する意欲はきれいに失われた。それ以来、外出せずに暮らしている。仕事はもともと自宅でやっているし必要なものは宅配で買える。フラットにいながらにして一流の音楽も楽しめるし、映画鑑賞もできる。旅行も好きで、この2年の間に、日本、エクアドル、ヨルダン、イタリア、ナイジェリア、インドネシア、ブラジル、中国を訪問したが、フラットからは一歩も出ていない。旅行業者のガルバの手を借りてフラットの中に外国を作ればいいのだ。つい最近もフィンランド人たちをフラットに呼び集めてフィンランド旅行を楽しんだ。
そんなオーシャンは最近また新しい仕事人を見つけた。債権回収業者のオードリーだ。手始めに、支払いを引き延ばし続ける悪質な取引先からデザイン料を回収してもらった。それから、自分の代わりに外国に行く仕事を依頼した。10年前に死んだウォルターから手紙が舞い込んだからだ。オーシャンはかつてダンサーを目指していたことがあり、ダンスの勉強のためにバルセロナに行って、「バビロン」というクラブで働いた。本番セックスショーが売り物のクラブだった。クラブには男女のキャストが大勢いたが、ウォルターもその一人だった。オーシャンがクラブにいた間に、キャストが次々に不可解な死を遂げるという事件があった。ウォルターからは2通目、3通目と手紙が来て、その中で彼は、殺人犯を知っている、と仄めかしていた。それでオードリーの出番となったのだ。

自宅から一歩も出ないオーシャンの話なのに、バルセロナはまあいいとして、ユーゴ、チューク(いったいどこ?)、サンクアイランド(これもどこ?)、と他所の土地の話になっていく。主役もほぼオードリーになったかのように展開していくが、最後のところでオーシャンが主役として戻ってきて、なるほど、と思わせる。ところで、この作品はストーリーとしては単純なのだが、内容はあきれるほど盛りだくさん。それは作者がひどく饒舌で、ひとつの話をするのにそれに関連した話や思いついた話などをいくつも展開してみせて、なかなか本筋に戻ってこなかったりするからだ。これがこの作品の読ませどころであろうから、この饒舌を楽しむしかないが、ちょっと煩わしい感じがしないでもない。(2013.8.20読了)

☆チュークはかつてのトラック諸島で、1989年に改称されたそうです。
Commented by マリーゴールド at 2013-11-04 23:53 x
部屋の中で一人で妄想しているような人が主人公ですね。
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by nishinayuu | 2013-10-31 16:07 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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