「ほっ」と。キャンペーン

『旅立つ理由』(旦敬介著、岩波書店、2011)


c0077412_1193741.jpg帯の惹句に「マスコミのプリズムを通していない素顔のアフリカ、南米を舞台に、普通の人びとの真摯に生きる表情と飾らぬ姿を簡潔に移し取る21の短編」とある。
ミケランジェロが見たいという息子を連れて日本からイタリアへやって来た男。ナイロビで一緒に暮らしている外国人の男とタンザニアのザンジバルに遊びに来た女性。ベリーズの中華料理店で、上海娘とエル・サルバドルの男の間で熱帯の恋愛詩が生まれる瞬間に立ち会った男。17年前、モロッコを訪れた男に、ジェラバを買えとしつこくつきまとったアハメッドという若者。植民地時代のブラジルの首都だったバイーアで、妻の稼ぎに頼って暮らすカポエイリスタ(黒人奴隷の格闘技を得意とする男)の一家。20年前来の念願である潜水少年が採る牡蠣を求めて、メキシコの湾岸のマンディンガにやって来た男と、小学生の息子。
アフリカ人の妻・アミーナの母親が住むウガンダの町への旅ではアフリカの流儀を教えられ、バイーアでブラジル人やアルゼンチンといっしょにとびきりのフェイジョアーダを食べ、ケニアではやはりケニアに住む別れた日本人の妻とときどき会って食事もし、妻・アミーナがナイロビで子供を産んだときはバイーアからリスボン、ロンドン経由で駆ける。これらの旅の物語に共通して登場するのは、ときどきダンさんと呼ばれたりする日本人で、ケニア人の父とウガンダ人の母を持つアミーナを妻とし、男の子の父親でもある男。辺境から辺境へと移動し続ける、するなんともスケールの大きい旅の物語である。
特に印象に残ったのはことばに関する次の二つのくだり。
1.ウルグアイとブラジルの国境をまたいだとたん、決然とした強い音のスペイン語から、一気に、飲み込むような曖昧な音の多いポルトガル語に移行するのだった。
2.かつてバイーアに「バンゾ」という名の店があったが、「バンゾ」とは黒人奴隷たちが故郷に対して抱いた強烈な郷愁のことを指すことばだった。

この本の魅力の一つは内容にマッチした鮮やかな色彩、大胆な構図のイラストが各所に散りばめられていることで、「アミーナの買い出し」の青緑色の象、「カチュンバーリの長い道のり」の花模様の象が特にいい。イラストの作者は門内ユキエ。(2013.7.20読了)
[PR]
by nishinayuu | 2013-09-21 11:09 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/20756480
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 韓国の詩 「荷物を背負う人と蝶... 『野いばら』(梶村啓二著、日本... >>