『Prelude』(Katherine Mansfield)

c0077412_16223096.jpg『前奏曲』(キャサリン・マンスフィールド,1918)
キャサリン・マンスフィールドは若くして故郷のニュージーランドを去り、再び故郷の土を踏むことなくフォンテンヌブローで病死した。そんな彼女には家族との思い出をもとに綴った一連のニュージーランド関連作品があり、内容的にそのニュージーランドもののまさに「前奏」といえるのが本作品である。最愛の弟の死をきっかけに書いた『The Aloe Tree』(1916)を書き改め、12の章にまとめたもので、家族が田舎の家に引っ越す場面に始まり、新しい生活に馴染んでいくまでの一人一人の行動や心の動きが綴られている。Aloe(アロエ)はこの新しい家の迷子になりそうなほど広い庭に聳え立つ木で、第6章では三女のケザイアと母のリンダが、第11章ではリンダとその母親のフェアフィールド夫人がその木の前に佇む。第11章の満月に浮かぶaloeの姿に、リンダは自分を遠くに連れだしてくれる舟を見ている。
家族構成は、ひとかどの事業家であり大家族を養う立派な家長であると自負する、健康で陽気で単純な父親のスタンリー/子どもと家から解放されることを夢みる繊細で病弱な美しい母親のリンダ/家事全般を取り仕切り、子どもたちに惜しみない愛情をふり注ぐ祖母のフェアフィールド夫人/リンダの妹で、勝手放題に振る舞う一方でとりとめのない夢に耽ったりもする不安定な年頃のベル/長女の特権を振りかざして優越感に浸っている幼稚な姉のイザベル/のろまで気弱で頼りにならないもう一人の姉のロティー/そしてこれらの人びとや周りの物事をしっかり見ている小さなケザイアで、作者の実際の家族と重なる。すなわち幼いながら鋭い観察力と冷静な判断力を持つ気丈な女の子は作者の分身である。この時点では弟はまだ生まれていない。
家族の他に、転居前に住んでいた家の隣の家族/馬車に乗りきれないという理由で取り残された(?!)ロティーとケザイアを新しい家に送り届けてくれた店の男フレッド/スタンリーを馬車で送り迎えしたり、飼っていたアヒルを殺したり、といろいろな仕事をする下男のパット/三姉妹と遊ぶのが大好きな従兄のピップとラッグズ兄弟/同じ若い女同士のせいでベリルの言動がなにかとしゃくに障る女中のアリスなどが登場する。
作者が6歳のときに一家はウエリントン市Tinakori(ティナコリ)から郊外のKarori(カロリ)へ引っ越している。その当時の一家の暮らしぶりや周りの状況などが再現されていると考えられるこの作品は、マンスフィールドの生まれ育ったニュージーランドという島国への郷愁をかき立ててやまない。(2013.6.25読了)
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by nishinayuu | 2013-08-31 16:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-09-03 10:35 x
幸福な時代、幸福な国、幸福な家族で、ほっとする物語ですね。
自然の豊かなニュージーランドは行ってみたい国です。
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