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『よくできた女』(バーバラ・ピム著、芦津かおり訳、みすず書房)

c0077412_926840.jpg『Excellent Woman』(Barbara Pym,1952)
本書は戦後間もない頃のロンドンを舞台に、一教区の住人たちの人間模様を描いた読み物である。語り手のミルドレッドは30過ぎの未婚女性。田舎の牧使館育ちで、今は両親の残したわずかな財産を頼りにロンドンで気ままなひとり暮らしをしている。彼女によれば、このような境遇の女性は他所さまのことに興味を持ったり首を突っ込んだりしてしまうのは自然の成り行きで、ましてや牧師の娘の場合、それはもう絶対に避けられないことなのだ。というわけで、彼女はいつも誰かの人生に巻き込まれ、他の人たちの悩み――賛美歌作家たちのもう少し高尚な物言いを借りれば「重荷」と言ってもいい――を背負わされ、劇的なことが起こるときにはいつもティーポットを手にして他人のためにお茶を入れることになる。彼女は一大事のときに誰もがあてにし、彼女の方でもついそれに応えてしまう「よくできた女」なのだ。
彼女を振り回す「他所さま」の主な面々は以下の通り。
彼女の住むフラットの階下に引っ越してきたネイピア夫妻。夫はハンサムで女たらしの海軍将校ロッキー、妻は有能な文化人類学者で美人のヘレナ。
ヘレナと同じ文化人類学者で金髪男性にありがちなうぬぼれたそぶりのエヴァラード・ボーン。
教区牧師とその姉。牧師は40歳くらいで苦行僧的な風格が備わっているジュリアン。姉は弟と教会のために献身的に尽くすことが生き甲斐になっているウィニフレッド。
教区に引っ越してきた「牧師の未亡人」のミセス・グレイ。

しかし彼女は黙って人に利用されているだけの人間ではない。冷静な観察力、鋭い感受性とユーモア感覚をもっている女性であり、窮地に立たされてもうまく切り抜ける才覚のある女性なのだ。心の中で展開する夢や世間への批判、皮肉などが時折態度や言葉に出てしまうところなど、現実にもいかにもありそうなはなしである。物語は最後に、苦い片思いしか経験のないミルドレッドの新しい恋の始まりをほのめかして終わる。(2013.6.9読了)

☆ちょっと気になったことがふたつ。一つは「“ええ、そうですわね”私は自信なさげに言いながら」の「自信なさげ」。他人のことを評している感じがするのですが。
もう一つは「何をにやけているんだい?」という表現。他人の色恋を想像してつい顔が緩んでしまった語り手に目の前の男が言う言葉なのですが、この「にやける」は誤用ではないでしょうか。
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by nishinayuu | 2013-08-16 09:26 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-08-18 09:00 x
主人公の恋の相手は牧師か金髪の男か、海軍将校かですね。「自信なさげ」は自分について言うのはちょっと違和感がありますね。「にやける」というのは下品な行為を連想させる言葉なので、上品なレディに対して使うのはやはり違和感がありますね。
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