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『갑을고시원 체류기』(박민규著)

c0077412_15311450.jpg『甲乙考試院滞在記』(朴珉奎)
作者は1968年生まれで、現在韓国で最も注目されている作家の一人。文学トンネ新人作家賞、ハンギョレ文学賞、イサン文学賞などを受賞している。政治性を排して日常を描き、重いテーマを軽い雰囲気で表現する作家といわれる。確かにこの作品も、深刻な状況を描きながら随所に笑いが盛り込まれていて、読んでいて楽しく、読後感も爽やかである。
物語は主人公の大学生が1991年に考試院で過ごした一年を描いたものである。主人公は父親が借金を抱えて家も手放すことになったため、自分でなんとか暮らしていかなければならなくなった。それで、「月9万ウォン、食事提供」という超安値で好条件の甲乙考試院を見つけて飛びつく。手許には兄が工面してくれた30万ウォンしかなかったからだ。考試院というのはもともと各種の高等試験を受験する若者のための宿舎だったから、受験生でもない自分を受け入れてくれるだろうか、と主人公は心配だったのだが、意外なことにあっさり入居できた。なんのことはない、この頃の考試院は受験のために入居する所ではなくなっていて、ただの廉価な宿舎として利用されていたのだ。
甲乙考試院に入居した主人公はびっくり仰天する。廊下は40センチ幅しかなく、すれ違うときは一人が壁に貼り付いてもう一人が通り過ぎるのを待っていなければならない。部屋は机を置くと脚を伸ばして寝る余地もなくなる。窓はなく、隣室との仕切りはベニヤ板一枚。つまり、どこかの国の「脱法ハウス」そっくりの、劣悪な居住空間なのだった。もちろんトイレ、洗面所は共同で、男も女も他人の目や耳を気にしていては暮らせない。入居者は、日雇い労働者やアルバイト店員、風俗店で働く女たちなどだったが、考試院にふさわしい本物の受験生も一人いた。もう何年も司法試験を受け続けている、通称「キム検事」である。
甲乙考試院の玄関には「室内静粛」という額がかかっているが、主人公は入居した日からこの「静粛」にがんじがらめになる。主人公に割り当てられた部屋がよりによって「キム検事」の隣の部屋だったのだ。仕切りの板は薄いばかりでなく上部が天井には届いていないので、音が筒抜けになる。受験勉強でぴりぴりしているキム検事はどんなに小さな音でも聞きつけて、「静かにしろ」と言いに来る。それで主人公は、音を立てずに体内からガスを放出する方法を工夫し、音を立てずに歩く優雅な歩き方をいつの間にか身につけていく。あとから思えばそれは「静粛(ジョンスク)」と仲良く、つまりジョンスク(○淑)さんと仲良く暮らしつつ、いろいろな人と出会い、いろいろなことを経験した1年だった。(2012.2.23読了、2013.7.16再読))

☆この作品ははじめ一人で読み、以前読んだ『그렇습니까. 기린입니다』ほど奇想天外なところがない、と思いながらさらっと読み流しました。1年以上経ってから韓国語講座で一つ一つの文章を検討しながら丁寧に読みました。講師の先生のおかげで、思考の流れをそのまま綴っていくような特異な文体も、色彩と音を融合させたとっぴともいえる比喩も、細かいところまで理解できました。また、体内から静かに出て行くガスを熱帯魚にたとえて、その熱帯魚を「懐かしい金剛山」に合わせて泳がせた部分などは、朗々とした歌声とメロディーを知らなければイメージとして浮かび上がってこない、したがってその比喩の妙味がわからない、ということを思い知ったのでした。なお、「懐かしい金剛山」については2週間ほどあとで記事にする予定です。
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by nishinayuu | 2013-08-10 15:32 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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