『五体不満足』(乙武洋匡著、講談社)


c0077412_210126.jpg読書会「かんあおい」2013年5月の課題図書。
外見の特異さと満面の笑顔。その一見アンバランスなものを体現している著者が、誕生から現在までを語った自伝である。障害を持って生まれたことを嘆いたり悲しんだりする記述はほとんどなく、一個の人間としてどう生きていたかが明るく爽やかな筆致で綴られていて、実に爽快な本である。
障害者が明るく爽やかに生きていくのは難しいと思われる世の中で、なぜ著者はこれほど前向きになれたのだろうか。その理由として考えられるのは、著者の両親がたぐいまれな資質の持ち主だったことであり、その両親から生まれた著者もまたたぐいまれな資質の持ち主だったことだろう。
両親のユニークさは本書のあちこちで語られている。病院側の配慮からか誕生直後の子どもには会えずにいた母親が、やっと目にすることができたわが子を見たとき、思わず「かわいい」と言ったというのは、この一家のその後を象徴するような場面である。両親は障害を持って生まれた子どもを哀れんで甘やかすということはいっさいなく、なんでも一人でできるように育てる一方で、父は父親と兄の二役をこなしてわが子としっかり付き合い、母は小学校に毎日付き添って廊下で待機する。わが子のために必要とあれば転居も厭わないこの両親は、中学生のわが子が友人と旅行すると聞くと、心配するどころかこれ幸いと香港旅行に行ってしまうユニークな人たちなのだ。こうして著者はすばらしい両親、すばらしい教師、すばらしい友だちを得て学校生活を存分に楽しみつつ成長していく。だから著者には「自分が障害者であるということを自覚する必要も、機会もなかった」。
20歳の秋の夜長、著者はあれこれ考えているうちにふと気がつく。「障害を持った人間しか持っていないものというものが必ずあるはずだ。そして、ボクは、そのことを成し遂げていくために、このような身体に生まれたのではないか」と。これが転機となって著者はまた一歩大きく前に踏み出し、障害者を苦しめている世間の心の壁を取り除くこと、つまりソフトのバリアフリーをめざして歩み出す。あとがきにヘレン・ケラーの「障害は不便である。しかし、不幸ではない」ということばが紹介されている。(2013.5.11読了)
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by nishinayuu | 2013-07-17 21:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-07-18 22:23 x
 稀有な人達ですね。
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