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『スノーグース』(ポール・ギャリコ著、矢川澄子訳、新潮社)


c0077412_17533114.jpg『The Snow Goose』(Paul Gallico,1941)
アメリカ生まれの作家ポール・ギャリコ(1897~1976)の初期の代表作「スノーグース」他2編を収めた短編集。翻訳の名手・矢川澄子の訳と、建石修志の繊細で叙情的な装画・挿画によって、文庫本ながら格調の高い一冊となっている。

「スノーグース」――エセックス海岸の沼地にあるうち捨てられた燈台に、1930年の春遅くひとりの孤独な男・ラヤダー(27歳)が住み着いた。彼は人間にも動物にも自然にもあふれる愛情を持っていたが、身体がねじくれているせいで人付き合いから身をひいてしまったのだった。3年目の秋、そんな彼のところに村の少女・フリスが訪ねてくる。胸には怪我をしたスノーグースを抱えていた。こうして始まった男と少女と白鳥の交流は、1940年のダンケルクの撤退作戦で終わりを告げる。英国軍の兵士たちは彼らを救った勇敢な小さなヨットと、ずっとヨットといっしょだったスノーグースのことを感慨を込めて語りあった。
「小さな奇跡」――1950年代のイタリアはアッシジ近郊の村に、ペピーノという10歳の少年がいた。戦争で両親も近親者も失った孤児だったが、だれの世話にもならずにやっていけるだけの財産を持っていた。その財産とは、ろばのヴィオレッタだった。善良で有用で、やさしい目をしていて、いつも微笑んでいるような表情をしたろばだった。ところが早春のある日、ヴィオレッタがふいに病気になった。ペピーノはヴィオレッタといっしょに荷運びやオリーブの収穫の手伝いや酔っぱらいを家に届ける仕事やらをして稼いで貯めていたお金で、獣医のバルトーリ先生に往診を頼んだ。が、獣医の先生もヴィオレッタを治すことはできず、ヴィオレッタは弱っていくばかりだった。ヴィオレッタを救ってくれるものは地上にはないと悟ったペピーノは、聖フランチェスコにすがろうと思い立つ。こうしてペピーノはヴィオレッタの手綱を引いてアッシジの聖フランチェスコ寺院を目指す。
「ルドミーラ」――舞台は19世紀のリヒテンシュタイン公国。ある渓谷にハイリゲ・ノートブルガ(お助け聖女さま)の聖ルドミーラを祀った小さなお堂がある。14世紀に乳搾りの少女・ルドミーラが、その経験と信仰と聖母マリアへの献身故に聖女に列せられ、アルプスに住む家畜や牧夫たちを守護していたのだった。ある夏の終わり、いつ賭場へ売られてもおかしくないちびで弱虫の雌牛が、この聖女さまの像をじっと見つめていた。するとその次の日、その雌牛に生まれて初めてバケツに何杯もの乳を出すという奇跡が起こった。そして雌牛は、夏の終わりの山下りの行列では先頭を歩くという栄光まで得たのだった。
この物語では雌牛も一人前に思いを語っているところが、あくまでも人間が主体の他の2編とは異なっている。

3編とも動物にまつわる奇跡の物語であるが、その「奇跡」については、「ルドミーラ」で合理主義者の代表として描かれている牧夫長のアロワと、信仰の人であるポルダ神父が興味深いやりとりをしている。(2013.4.14読了)
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by nishinayuu | 2013-06-20 17:54 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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