『ビターシュガー』(大島真寿実著、小学館、2010)


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虹色天気雨』(2006)の続編で、2010年の発行。登場人物たちもちょうどそれくらいの歳を重ねたようで、美月(みづき)は中学生になっている。語り手は市子さん。
できることなら、周囲の誰にも嘘はつきたくないし、なるたけ正直に、あけすけに生きていきたいと思ってはいても、残念ながら、日々の暮らしには至る所に様々な罠が仕掛けられていて、いくつになってもろくに成長せず、ぼーっとしたまま易きに流されていると、罠にはまってのっぴきならないところにまで追い込まれ、その挙げ句、つきたくもない嘘までついてしまうことになる、と四十路に突入してからというもの、妙に強く実感していた。
話は市子さんがまさにそういうのっぴきならないところまで追いこまれたところから始まる。ある日市子さんの家に美月がいきなり現れて、リビングでくつろいでいる旭(あきら)に出くわしてしまったのだ。市子さんが、美月の母親である奈津に内緒で、別居中の父・憲吾さんと美月が市子さんのパソコンでメール交換することを許していたのがそもそもの間違い。さらに市子さんが、不始末をしでかしたゲイの三宅ちゃんに拝み倒されて、まりの元恋人である旭を居候として置いてやったのがもう一つの間違いだった。かくして市子さんは、高校からの仲良し3人組の一人である奈津の娘から、3人組のもう一人であるまりの元恋人と同棲している、と誤解され、あきれられ、冷たい目で見られ……と、なんともなさけないことになってしまう。市子さんが懸命に事情を説明した結果、美月にはいちおう言い分を認めてもらえたようだが、それでもなお市子さんは軽率だ、まりちゃんの気持ちをなんで考えてあげないのか、と責められる。しかし当のまりは、初めて結婚したい相手を見つけたとかで、「市子もやっとその気になったか」と勘違いしたまま祝福してくれる。奈津も状況を知るとやはり「市子もやっと」と納得してしまう。旭の居候生活は思いの外長引き、美月や奈津、まりも不意に現れてはおしゃべりしたり食事したりしていき、どさくさに紛れて三宅ちゃんまでそこにまぎれ込むようになる。締めきりのある仕事をしていて時間に追われているはずの市子さん。自分で言うほどぼーっとしているわけでもない市子さん。それでもどこかホンワカしている市子さんのところには、しょっちゅう誰かがやってきてはごろごろしていくのだ。

語り口もホンワカと柔らかく、とても気持ちのよい雰囲気のお話である。作者もきっと市子さんと同じように暖かくて優しい人なのだろう。一つだけ気になったのは、市子さんと美月、奈津の三人で奈津がデパ地下で買ってきた惣菜で食事をする場面。どうせ自分たちだけだし、片付けが面倒だから、と奈津が言うので、プラスチック容器の蓋を開けて並べただけの、いいかげんな食卓で食べた、とあるが、いくら奈津が言いだしたにしても、おっとりゆったりした市子さんらしくない振る舞いで、残念でしかたがない。(2013.4.3読了)
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by nishinayuu | 2013-06-08 11:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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