『ソーラー』(イアン・マキューアン著、村松潔訳、新潮クレストブックス)

c0077412_932566.jpg『Solar』(Ian McEwan)
彼はなんとなく感じの悪い、チビ、デブ、ハゲで、頭はいいという男の種族、どういうわけかある種の美女にもてたりする、あの種族に属していた。
と冒頭で紹介されるマイケル・ビアードが本書の主人公である。ビアードの頭のよさに関しては、彼が40歳そこそこでビアード=アインシュタイン融合理論によってノーベル賞を受賞していることで立証されているが、さらにオクスフォード時代、ミルトンに関する論文を書いているという女子学生の気を引こうとして短期間にミルトンの主要作品を片っ端から読んで暗記し、彼女との会話の中で詩句を引用したりして彼女に警戒心を起こさせた、というエピソードも挿入されている。ただしノーベル賞受賞後のビアードは、研究所に名誉職として籍を置いたり、あちこちから招かれて講演や簡単なスピーチをしたりして適当に稼ぐのに余念がなく、地道な研究とは縁のない生活を送っている。というのもビアードにとっては食欲と性欲を満たすことが一番の関心事だからだ。
2000年(53歳)の時点でビアードは、5番目の妻との破局を迎えようとしていた。ビアードに当てつけるように愛人を作った妻が急にとてつもない美人に見えだし、別れるのが惜しくてぐずぐずしているが、その最中にも浮気の虫はおさまらない。「地球の温暖化を自分の目で確かめる」という名目の旅行に招待されたので気晴らしにでかけた北極でさんざんな目に合い(この男、とんでもなくドジなのだ)、やっと家に帰ってきたらそこには妻の新しい愛人(なんと研究所の部下)が部屋着でくつろいでいた。その部下が敷物に脚をひっかけて事故死すると、間違いなく自分が疑われる、と考えついて妻のもう一人の愛人(リフォームをしに来た肉体派の男)が置いていった道具箱を利用してその男が殺したように工作する。そして男が殺人罪で服役するや、自分の所業はきれいさっぱり忘れて食欲と性欲の世界に舞い戻る、という驚くべき神経の持ち主なのだ。結局5番目の妻とは別れ、おっとりした雰囲気の愛人に気を許しているうちに、父親になったと告知される。拒絶したくても後の祭りである。
2009年、ビアードはニューメキシコ州のローズバーグに来ている。ビアードが開発した人工光合成によるソーラー発電機を披露するイヴェントが大々的に行われるからだ。ビアードは、5番目の妻の愛人だった部下が暖めていた人工光合成によるソーラー発電のアイディアを、どさくさに紛れて自分の業績にしてしまったのだ。しかしビアードは今、危機的状況にある。長年不摂生をしてきた身体はすぐにも対処しないと危ない状態だと医者から警告されており、殺人の罪を着せた男がビアードに会いにわざわざアメリカまでやってきたという情報があり、もといた研究所からはソーラー発電のアイディア盗用で訴えられようとしているのだ。さらに今、彼の目の前にアメリカの愛人と国に残してきた愛人がもみ合いながら現れ、娘のカトリオナが彼の名を叫びながら突進してくる。
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by nishinayuu | 2013-06-05 09:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-06-06 20:49 x
奇想天外、超ドタバタ喜劇のようですね。うまく切り抜けてくれと応援したくなるキャラ!
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