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『花火』(パトリック・ドゥヴィル著、野崎歓訳、白水社)


c0077412_1733784.jpg『Le Feu d’Artifice』(Patrick Devill)
本作品はフランスの出版社ミニュイが1992年に刊行したもので、当時の作者の年齢は35歳である。
登場するのは作者と同年代とおぼしき若者たち。語り手の「ぼく」と友人のルイ、ガールフレンドのアネット・ヴェルヌ、女友達のジュリエット、ジュリエットの男友達である「スズメバチ」、また別の女友達のロジー、リュシールなどなど。ただし、以上のうち何人かは同一人物である。というのは、ジュリエットが変装の名人で、老若男女の誰にでも変身してしまうという特技の持ち主だからだ。このジュリエットは作中で次のように紹介されている。
破壊や荒廃と引き換えにでも快楽を求め、ばらばらに砕けて言葉も失った恋人たちを後に残して突き進み、化粧品はランカスターを愛用、ついには自分自身も大惨事のうちに姿を消してしまう。ジュリエットはそんな女の子たちの一人だった。
主な舞台はロワール川の河口にある街ナント。「ぼく」がここにやって来たのは、この街の地理研究所で恋人のアネットが所長として働いているからだった。そして「ぼく」は大学でいっしょに哲学を学び、今は地理学者になっているルイを呼び寄せて研究所で働けるようにした。彼を助けるためでもあり、何もかもうまく行かない自分のためでもあった。ルイは街に来てすぐにジュリエットと知りあい、夢中になった。「ぼく」はジュリエットのことを少し前から知っていて、彼女が万引きをしたりハッシッシュを仕入れたりすること、変装癖があって、ある界隈ではテレビゲームの王者として知られていることなどを突き止めていたが、ルイには言わなかった。
ところで「ぼく」は、税金の違いにつけ込んで、中古の最高級車をブリュッセルからパリに運んで売ることで生計を立てている。キャデラック1台で1,2ヶ月の生活費が稼げるのだ。その他に「ぼく」はラジオ局にちょっとした小話を売っている。さらに、ルイのことを本にしようと思っていて、ルイに毎日の出来事を日記に書いて報告するようにさせる。「ぼく」はアネットとは分かれ、ルイやジュリエットと行動を共にする。時にはデンマーク、ノルウェー、スウェーデンへ、時には南フランス、イタリア、モロッコへ、と彼らは「エンジン全開で」駆けめぐる。

なお、この作品の終わり方について訳者は次のように述べている。
旅がいったん終わっても、到達点こそが実は出発点なのであり、物語は最後に冒頭へと逆流していく。しかもそこには実に微妙な、メビウスの話に譬えるしかないような捩れが生じている。その思いがけない捩れの眩惑を楽しんでいただけたならば、訳者としては本望である。
(2013.3.11読了)
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by nishinayuu | 2013-05-18 17:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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