『冬の龍』(藤江じゅん著、福音館)


c0077412_19535923.jpg読書会「かんあおい」2013年4月の課題図書。
物語は全部で28の章からなり、それらの章が4つのグループにまとめられて、各グループに「一」「陽」「来」「復」というタイトルが付けられている。すなわち、いろいろ悪いことが続いたあとでめでたしめでたしとなる物語であり、季節は冬至から新年に掛けてである。
第1章は「穴八幡の冬至祭」。ここで主人公の寺島シゲル(6年生)、寺島誠(シゲルの父)、松村すず(下宿屋「九月館」の管理人)、山口先生(シゲルの担任)などが紹介される。シゲルは今、父が学生時代に下宿していた九月館に一人で世話になっている。4歳で母を亡くし、父は会社を辞めて故郷に仕事を探しに行っているからだ。その父から松村すずのもとに今月分の下宿代とシゲルへのクリスマスプレゼント代(2000円)が届く。シゲルは自分で貯めてきたお金に父からのお金をプラスしてマウンテンバイクを買うつもりだったが、当てが外れてがっかりする。
第2章「真夜中の肝だめし」で、シゲルと友だちの遠山哲(大勢の兄弟姉妹のお兄さん)、川原雄治(古本屋の息子)、桐沢なつみ(写真屋の娘でクラスの女王様)らが登場。なつみの心霊写真の話を雄治がせせら笑ったことから、男子三人組は夜中に南藏院(面影橋をわたってちょっと行った所にある)に行き、証拠に写真を撮ってこないといけないことになる。午前二時に南藏院で写真を撮っていたとき、三人の前に小槻二郎が現れる。松村すずに会うために信州から来たというこの青年は昔、九月館にあったケヤキの精だった。新しい年が来る前に「龍の玉」を見つけないと禍が起きる、という二郎の話を聞いたシゲルたちは、半信半疑ながらあちこちの寺や神社を訪ね歩くことになる。
物語は、木の精と龍の玉といった幻想的世界と、シゲルたちや下宿人たちの日常生活といった現実の世界が無理なく調和して綴られていき、龍の昇天という大団円のあと、穏やかでさわやかな結末へと導かれていく。そうした流れの中に、早稲田を中心とする各地の寺や神社の歴史や言い伝え、古書に綴られている事柄や古本市と古書蒐集家の世界、昭和初期から始まる九月館の歴史など、様々な事柄の詳細な記述が、収拾がつくのか心配になるほどたくさん盛り込まれている。スーパーで葱を買うエピソードには蕪村の「葱買うて枯れ木の中を帰りけり」なぞが添えられていたりするのだ。とにかく読みでのある大作である。(2013.2.25読了)

☆もともと小学校高学年用の課題図書だったため、近所の図書館にかなりの冊数がそろっていて、おかげで読書会の会員全員が一冊ずつ手許に置いてゆっくり読むことができました。いつものように何人かで回し読みしたのでは内容がつかみきれなかったかも知れないと思うほどに情報量の多い作品です。そのせいか対象の小学校高学年の子どもたちにはあまり読まれていないようで、どの本もまっさらの感じでした。
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by nishinayuu | 2013-05-03 19:54 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2013-05-05 19:25 x
子供用の本って何十年も読んでないですが、近所に子供が多いから共通の話題作りに良いかも。
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