『ショートカットの女たち』(パトリス・ルコント著、桑原隆行訳、春風社)


c0077412_9423310.jpg『Les Femmes aux Cheveux Courts』(Patrice Leconte)
『列車に乗った男』の映画監督が初めて発表した小説。日本語版に寄せた著者のことばに「とてもフランス的な物語、とてもセンチメンタルで晴れやかな恋愛物語」とある。
語り手のトマは27歳で、文房具店「ヴィーナス万年筆」の店員。もうすぐ死ぬと思いこんでいる(それでいて全然そんな気配はない)母親のために、3年以内に結婚して孫を見せてあげたいと考えているが、まだ相手はいない。注意深く観察した後で、ついにトマは、ショートカットの女たちは他の女たちより美しいと断定する。たとえば近所のカフェでウェイトレスをしている、多分ロシア生まれのオルガ。たとえばスペイン語講座でいっしょだったロランス(講座を受けていた頃はセミ・ロングで顔がよく見えなかったのだが、久しぶりに出会ったらショートカットにしていて見とれるほど美しかった)。たとえば親友のアンドレの誕生日パーティーで出会った女性。けれども彼女たちはすでに結婚しているかそうでなければ若すぎるので、結婚相手にはならない。
ところで「ヴィーナス万年筆」には4人の女性がいる。店長と三人の店員だ。店長のマダム・カプリエは容姿端麗で魅力的だが、トマよりずっと年上だし、夫と娘がいるらしい。イヴェットは優しくてきまじめな女性だが、ブロンドで半透明の肌をしている(トマの好みはブルネットで艶のない肌なのに)。ルイーズはよく笑い、生き生きしているが、婚約者がいる。サンドリーヌはまじめで信頼でき、分別があるが、分別がありすぎてユーモアに欠ける。そもそも4人ともショートカットではないから、他の条件はともかくとして初めから結婚の対象にはならない。
ある朝トマはメトロで驚くほど美しい女の子を見かける。人生で出会った最高にきれいなその子は、もちろんショートカットで、もちろんブルネット。文庫本のコレットの小説を夢中になって読んでいる。トマは「ヴィーナス万年筆」に体調不良だから休む、と電話して少女のあとをつける。午後の終わりにやっと少女に声をかけたが、自分の名を告げ、彼女の名がなんとコレットだということを聞き出しただけで別れる。その若すぎる娘とはおそらく二度と会うことはないと思いながら。
ここまでが「とてもセンチメンタル」な部分で、そのあと「とてもフランス的な」驚くべき愛の遍歴があり、やがてさらに驚くべき「晴れやかな」結末へと展開していく。(2013.2.4読了)
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by nishinayuu | 2013-04-15 09:42 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by マリーゴールド at 2013-04-17 08:42 x
フランス的な愛の遍歴とはいかに?
Commented by nishinayuu at 2013-04-18 22:07
「フランス的な」と著者自身が言っているので、なるほどこれがフランス的なのか、と納得しました。お読みになればわかりますが、日本的でないことは確かです。
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