『ひつじ探偵団』(レオニー・スヴァン著、小津薫訳、早川書房)


c0077412_1557615.jpg『GLENKILL』(Leonie Swann)
アイルランドのグレンキルという牧草地を舞台に、羊たちが彼らを愛し、守ってくれていた老羊飼い・ジョージの死の真相を探る物語。事件そのものはごく単純で、まず死体が発見され、怪しい人物(と羊)が浮かび上がり、羊たちがそれを一件一件探っていって最後に「犯人」を突き止める。だから「ひつじ探偵団」なのだが、人間の代わりに羊が事件を解決するファンタジックなミステリー、というわけではない。
巻頭にはミス・メイプル(ミス・マープルのもじり)やらオテロ(もちろん全身が黒い)やらゾラ、ラムセス、コーデリアやら、サー(羊のくせに!)・リッチフィールドといった名前からして個性的で、性格・知性もヴァラエティーに富んだ羊が18匹もあげられている。彼らの名前と身体の特徴、性格を頭に入れるだけでも大変なのに、さらに登場人物として13人もの人間があげられているので、ややこしいことこの上ない。まあ、全部頭に入れなくても、と思って見切り発車で読み始めると、今度は人間のことばや行動がよく理解できない羊たちの、勝手な想像を交えた冗長なやりとりに延々とつき合わされる。それに彼らは一致団結して事件解決に邁進するわけでもなく、すぐに気が散ったり、無関心になったり、いいかげんになったりする。彼らのそのいかにも羊的な(と人間には思える)言動が、丁寧に、というかのんびり悠長に語られていくので、ミステリーのつもりで読んでいたらとてもつき合いきれない。それなのに途中で投げ出すのは惜しいと思えてくるのは、いつの間にか羊たちの発想や言動に違和感を覚えなくなり、羊たちの魅力の虜になってしまうからだろう。つまりこの作品は、ミステリーの形を借りて羊の生態を語り、羊がいかに魅力的な動物かを語る物語なのだ。
個性的な名前の羊たちに混じって、ただの「子羊」と「冬子羊」が出てくる。ただの「子羊」のほうは母親の庇護の下にあるれっきとした群の一員で、最初の冬を乗り越えたあとで名前をもらうことになっている。しかし母親がいない「冬子羊」のほうは、群の一員とは認められていない。騒ぎを巻き起こす厄介もののこの「冬子羊」は、みんなからのけものにされながらもしぶとく群のまわりをうろついて、少しずつ群に入り込んでくる。なかなか強かで健気な子羊なのだ。この作品は作者の綿密な羊観察研究の成果だということだが、むくむくふんわりした羊たちの中にみすぼらしい「冬子羊」が混ざっているところにリアリティが感じられる。(2013.1.22読了)
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by nishinayuu | 2013-03-25 15:57 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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