『女薬剤師』(イングリート・ノル著、平野卿子訳、集英社)


c0077412_2312724.jpg『Die Aphothekerin』(Ingrid Noll)
ミステリーである。けれども誰が何をしたかがあからさまに語られているので、「犯人捜し」はない。変死や怪死が続くけれども、警察が乗り出して来ないので、実は「犯人」もいない。そんなことがあっていいものだろうか、と思いながら読み進むことになるのだが、そのうちいつの間にか当事者に肩入れして最後までばれないことを願ってしまう。そのような物語展開になっている、というか作者の奸計にやすやすとやられてしまうように仕組まれているのだ。表紙カバー裏に作者の顔写真があるが、読み終わってから見ると、「してやったり」という顔に見えてくる。
主人公のヘラは、「金のことなど言うな」というのが口癖で肉食を忌み嫌う父親のもとで育ち、整理整頓好きで勤勉、勉強のできるいい子だった。そんなヘラが12歳のとき、ヘラのせいで同級生の男の子が死んだ。嫌がらせで教室から閉め出されたヘラが、中に入ろうとドアに体当たりしたとき、勢いよく開いたドアのノブが、最後までドアを押さえていたその子の頭を直撃したのだ。ヘラが関わった最初の「死」であるこのできごとは、その後の人生でヘラが遭遇するいくつかの「死」を暗示するかのようだ。すなわち、ヘラは「別に悪くはなかった」のだ。
「犯人」はいないが、「謎」はいろいろある。今ヘラは婦人科病棟に入院中なのだが、何の病気? ヘラは退屈しのぎに、相部屋の偏屈なおばさん、フラウ・ヒルテに自分の波乱に満ちた半生を語って聞かせているのだが、途中で居眠りしたりするくせに話の続きを催促するこの女性はいったい何者?ヘラのお見舞いにやってくるという記述があるだけで詳細は述べられていないパヴェルという人物は、ヘラとどういう関係?――などなどの謎がちりばめられていて、それらが小出しに解明されていく。最大の謎はフラウ・ヒルテ(ファーストネームはローゼマリーと判明)がなぜかいきなり、次なる殺人のやり方を楽しそうにヘラに示唆することである。なぜそんなことになるのかは、作者の第1作である『雄鳥は死んだ』(Der Hahn ist tot)を読んだ人にしかわからない、ということが訳者のあとがきで判明する。つまり、本作品を読む前に『雄鳥は死んだ』を読んでおかないと、本作品の面白みは半減することになる。(こういうことは「あとがき」ではなく「まえがき」で書いて欲しかったなあ。)因みに『雄鳥は死んだ』の翻訳書は、『特技は殺人』というタイトルで集英社文庫に入っている。(2012.12.25読了)
[PR]
by nishinayuu | 2013-03-01 23:13 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/19504719
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『The Star Child... ㅎで始まる植物の名前 >>