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『즐거운 나의 집』(공지영,푸른숲)


c0077412_1045599.jpg『楽しい我が家』(孔枝泳著)
『맨발로 글목을 돌다(裸足で文章の路地を回る)』で2011年に李箱文学賞を受けた孔枝泳が、2007年に出した作品。李箱文学賞はこの作品を含めた作家活動全般に対して与えられたものであろう。というのも、『맨발로 글목을 돌다』よりこちらのほうがずっと完成度が高く、読み応えのある作品だからだ。
「我が家」の構成員は母親と3人の子ども。母親は名前も顔も世間によく知られている人物であるが、それはベストセラー作家だからでもあり、3回の離婚という韓国社会では非常識とも言える経歴の持ち主だからでもある。長女は大学進学を控えた高校生のウィニョン。長男は自分の世界に閉じこもりがちなドゥンビン。次男はやんちゃ坊主のジェジェ。それぞれ父親が異なるため姓も異なる。夫婦別姓の韓国では子どもは父親の姓になるので、3人は当然母親とも別の姓だ。つまりこの家には4つの姓があるのだ。この複雑な家庭のてんやわんやの日々を、長女のウィニョンが語っていく。
ウィニョンは父親の元で育ったお父さんっ子だったが、9歳のときに父が再婚してから父との間に距離を感じるようになっていった。16歳のとき、父の許から逃げるようにしてE市の祖母の家に身を寄せ、その後祖母の家もあとにして母親の住むB市にやってきた。幼いときに別れた母との、初めてとも言える母娘の生活が始まる。厳格で規律を好む父の家と違って、おおらかでおおざっぱな母の家はしっちゃかめっちゃかだったが、「情」に溢れていた。それは父と母それぞれが育った家の違いでもあった。自分の娘である母を全面的に理解、応援している祖父。会えなくなった幼い孫娘の写真をなで回していたという祖母――このことを知っていたら、思春期をもう少し楽に過ごせたろうに、とウィニョンは思う。
子どもたち3人はそろいもそろって学校嫌い、勉強嫌いで、成績も思わしくない。子どもたちが拾ってきて可愛がっていた子猫が衰弱して死に、不遇のまま病に倒れたドゥンビンの父親も死ぬ。思春期のドゥンビンと反抗期のジェジェはただの子どもから「男の子」になっていく。そんな状況に振り回され、講演旅行も度重なってぼろぼろになりそうな母が、心の支えとなる男性に出会ったことを知って、ウィニョンは心から喜ぶ。母と暮らしたことで、父や継母への心のしこりからも抜け出したウィニョンに、やがて巣立ちのときがやってくる。
☆この作品の「母」は作者がモデルなのですが、語り手を長女にしたことで、「母」が高学歴で美人だという叙述も嫌み無く読めてしまいます(うまい手を考えましたね)。
ところで、母親が子どもに謝るときにただ「ごめんね」というのではなく「엄마가 미안해」とわざわざ「お母さんが」と言ったり、話の終わりに相手の名前を付けたりすることが多く、日本語より呼称の登場する頻度が高いように思われます(統計を取ったわけではないのでただの印象でしかありませんが)。もしかしたらこれは韓国人の言う「情の深さ」の一つの表れでしょうか。(2012.11.26読了)
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by nishinayuu | 2013-01-24 10:05 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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