『尼僧とキューピッドの弓』(多和田葉子著、講談社)


c0077412_9542997.jpg「ハンブルグとブレーメンとハノーヴァーを線で結べばできるはずの三角形の真ん中にある」W市。ここの小さな駅に語り手の女性が降り立つところから物語は始まる。人気はなく、車の交通量ばかり多い道をたどって、語り手は目的の場所である修道院にたどり着く。物書きである語り手は、修道院についていろいろ調べるために、しばらく滞在する予定でやって来たのだ。到着してみると、ここに来るようにと誘ってくれた尼僧院長は出て行ってしまったとわかるが、それでも語り手の滞在は何の問題もなく受け入れられる。尼僧院長の代理という人物が、尼僧院の歴史や性格を説明したあと院内を案内してくれる。その説明によると、ここはもともとはカトリックの修道院だったが現在はプロテスタントの施設で、いちばんの使命は歴史的文化財を保護することだという。院内の住人たちも入れ替わり立ち替わり現れて、語り手をお茶に誘ったり、いろいろな情報を与えてくれたりする。ただし、尼僧院長の出奔事件については誰も話したがらない。この住人たちに語り手は秘かにニックネームを付けていく(その漢字表記の名前の読み方がよくわからなくて気になる)。その住人たちとは……
透明美さん――尼僧院長代理。キリッとした美人。子育てを終えてから離婚して尼僧院に入り、そのあとハンブルグ大学で修士号をとった歴史学者。
老桃さん――2代前の尼僧院長。100歳近いが好奇心も食欲も旺盛。
貴岸さん――老桃さんの世話をしている背が高くて筋肉質の、気位の高い女性。アイケロー教会の女性牧師に惚れ込んでいる。
陰休さん――大きな病気をして、放射線治療を受けている女性。
火瀬さん――別館に住んでいる前尼僧院長。小柄で小太り、元気な年金生活者という感じの庶民的な雰囲気の女性。
河高さん――裏庭の一戸建ての住人。尼僧院の正式な一員ではなく見習い中なので、修道院の時間の流れの中に溶け込んでいないようで、身体の動きも計画の立て方もせわしない。
流壺さん――85歳だが重い荷を下ろしたあとの軽やかさと、無条件に愛されている幼児の華やかさをもっている女性。いなくなった尼僧院長は、弓(きゅう)道の先生のキュウーピッドの矢に射られた、と言って、その語呂合わせに満足してきゅっきゅっと笑う。
鹿森さん――「傷を負ったヘラジカの威厳と痛みを感じさせる歩き方」の女性。
若理さん――元弁護士の赤毛の女性。ほかの人たちより少し若い。

本書は第1章「遠方からの客」と第2章「翼のない矢」からなっている。第1章で姿を消したという話だけでどんな人物か不明だった尼僧院長が、第2章の語り手として登場し、出奔事件に至るまでの経緯を語る。
(2012.10.18読了)
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by nishinayuu | 2012-12-22 09:55 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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