『窓辺の疑惑』(ジョーン・ラ・ガリット著、島津智訳、PHP)


c0077412_11253378.jpg『Zacharie』(John LaGalite)
物語の冒頭に、女性がアパートメントの8階から転落する場面がある。語り手は12歳の少年ザカリ。病院で付添婦として働く母親と二人暮らしをしており、朝は7時に帰宅する母親のためにザカリが朝食を作り、夜は母親が作った夕食をふたりで食べたあと、母親は出勤する。そのあとザカリは真夜中まで、一人でテレビで探偵映画を見たり、パソコン相手にチェスをしたりして遊ぶ。最近はザカリの方が勝つことが多いので、チェスの選手になれるかも、とザカリは思う。ザカリは糖尿病を患っており、そのうち知能の発育が止まるだろうと言われていたが、医者たちは間違っている、とザカリは思う。
転落した女性はザカリたちの隣の部屋の住人だった。その部屋に、男の人が越してくる。夕方、男が脇の下にヘルメットを抱えて部屋を出ると、ザカリは急いで後を追う。地下駐車場からバイクで出て行く男を、ザカリは物陰から見送る。夜11時、男の乗ったバイクが戻ってきて、エレベーターがザカリの階に止まると、ザカリはチェスをおっぽり出して隣との仕切り壁に耳を付ける。電話に出ているのか、男のぼそぼそとつぶやく声が聞こえる。ザカリは聞いたことをメモにとる。男はバイクで出かけないときは向かいのビルからこちらのビルの様子を観察しているようだ。観察に値するような人間はいないようなのに。ザカリのママ以外は。
ザカリのママは隣の男に転居祝いのお菓子を作りたい、と言う。男が来てからママの表情が明るい。ザカリはママを手伝ってケーキを作り、男を呼びに行く。けれども彼は部屋にいないし、バイクもない。ママはがっかりしているが、ザカリはほっとする。このところ新聞を賑わしている連続殺人事件の被害者はみんな美人だ。ザカリのママのように。ザカリは怪しい男からママを守らなくてはならないのだ。

12歳の少年が語り手なので、話の内容がどこまで信頼できるのか、という不安がつきまとう作品である。一般的に言って、信頼できない語り手を登場させる推理小説というのはずるいというか、汚いという感じがするが、この作品に限っては、一途な少年の思いにしだいに引き込まれて、少年のためにいい結果になることを願う気持ちが高まるため、裏切られた感じや不快な感じは残らない。スリルと哀愁と静謐な美しさに満たされた作品である。(2012.103読了)
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by nishinayuu | 2012-12-01 11:25 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-12-03 19:38 x
謎の男はママの恋人かママを守る警官ではないだろうか。もし犯人だとすると少年と犯人の戦いで少年に勝ち目はないような気がするから。
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