『ハートストーン』(ルース・レンデル著、古屋美登里訳、福武書店)


c0077412_10554683.jpg『Heartstones』(Ruth Rendell)
6つの章からなる中編小説。物語の舞台は大聖堂の敷地に接するように建っている古い館。ハートストーンとは、この館の路地に嵌め込まれた、形も大きさも人間の心臓にそっくりの敷石のことである。館の住人は大学教授で司祭の資格も持つルーク、長女のエルヴィラ、次女のデスピーナ(通称スピニー)で、少女たちの母であるアンは物語の冒頭でその死が語られる。語り手は思春期のまっただ中にあって、独特の精神世界に生きているエルヴィラ。
「その頃わたしは毒を盛ることなど考えもしなかった。それにこれだけははっきり言えるが、わたしは母の死にはまったく関与していない。(中略)わたしは母の死に関わりはなかったけれど、母が死ぬことは予想がついていた。」
母親の死を知って泣きじゃくるスピニーを眺めながら、エルヴィラはひたすらルークが病院から帰ってくるのを待つ。そして彼が美しい顔立ちのまま、輝いた、情熱的で、崇高な表情で部屋に入ってきたのを見たとたん、エルヴィラは
「火となり大気となって肉体を失った。ルークさえいればそれでよかった。彼を見ているだけでよかった。彼と同じ部屋にいて、二つの魂を融合させるだけでよかった。」
アガメムノンを崇める(おやじギャグ?)エレクトラのごときエルヴィラは、世俗とは隔絶してルークとともに古典の世界を逍遙する日々を綴っていく。エルヴィラにとってルークが特別の存在であったように、ルークにとってもエルヴィラは特別の存在であった、はずなのだが……。
冒頭に母の死があり、やがて真っ赤なドレスの女性がハートストーンに叩きつけられて死に、続いてまた一人が大量の血の海に横たわる。はたしてこれらの死にエルヴィラは関与しているのか。ゴシックロマン風に始まり、心理小説風に展開したあと、物語は戦慄の事件を暗示して終わる。(2012.9.28読了)
☆画像はRandom House(1994)のものです。
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by nishinayuu | 2012-11-25 10:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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