『花のノートルダム』(ジャン・ジュネ著、堀口大学訳、新潮社)


c0077412_13313364.jpg『Notre-Dame des Fleurs』(Jean Genêt)
『花のノートルダム』は「乞食で、泥棒で、男娼で、裏切りを義務の如くに愛する囚人」ジャン・ジュネの処女小説である。物語の冒頭部分の、本題に入る前の段階で、作者はこの作品の性格を次のように語っている。
「わたしは、自分では見たこともない自分の恋人たちに援けられて、一つの物語を書こうと思い立ちました。私の物語の主人公は、つまり(独房の)壁に貼られているあの連中です。あの連中と、現に入獄中の私とです。みなさんが読んで行かれるに従って、これ等の人物は、ディヴィーヌも、キュラフロアも、落ち葉のように私のページに舞い落ちて、この物語を肥やしてくれる筈です。(中略)(看守が、自分では気づかずに、語ってくれた隣房の放火犯、贋金つくり、殺人犯たちの)姿も、壁の上の友人たちと調合して、私はこの童話の種にするつもりです。(中略)そして私の独房を嬉しがらせるために、自分としてはほんのわずかしか知らなかったディヴィーヌの身の上、花のノートルダムの身の上、さては私自身の身の上も、勝手気ままに作りかえてやるつもりです。」
上記の文に続いて花のノートルダムの人相書きが記されている。身長1メートル71、体重71キロ、面長、亜麻いろの髪、碧眼、顔色浅黒く、歯は完全、鼻筋方正。そして少し後に紹介されるミニョンの人相書きは、身長1メートル75,体重75キロ、面長、亜麻いろ髪、目のいろ青緑、艶のない顔いろ、端正な鼻すじ。ディヴィーヌと深い関わりのあるこの二人は、一人は女衒(ミニョン)で一人は男娼(花のノートルダム)であるが実は親子、ということになっている。ディヴィーヌも受け身の男娼であり、キュラフロアというのは彼女が「彼」だったときの名前である。
ミモザ1世、ミモザ2世、ガブリエル、アルベルト、晴れやかな黒人のセック・ゴルギ、マルケッティなどなど、素晴らしく美しい彼女や彼が作り出す怪しい華やかさと毒々しさに満ちた世界に圧倒される。(2012.8.29読了)
☆長い間ツンドク状態だったのをやっと読み終えました。今は昔、アンチロマン、アンチテアトルが一世を風靡した頃に買い集めた書物の一冊。ロブグリエの『迷路のなかで』の虜になり、ソレルス、サロート、ル・クレジオなど、片っ端から読みましたが、ジャン・ジュネのこの作品だけは数行で投げ出してしまいました。その後も何度か手にとりましたが、やっぱり無理、とあきらめました。このたび、最後の挑戦のつもりで読み始めたら、とても受け付けられない、と思っていた文体も内容も、ほとんど抵抗なくすんなり入ってきてびっくりしました。私もこの年になって(どの年?)やっと人間ができてきたということでしょうか。
☆画像は河出文庫のものです。
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by nishinayuu | 2012-10-23 13:31 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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